持続可能な社会を目指して、一つ屋根の下で生活。エネルギー自給自足の共有スペース「RESSÒ」
一見、鉄パイプの足場が組まれた倉庫のように見えるこの建物。実は、数年前に開催された「Solar Decathlon Europe 2014」(太陽エネルギーを利用した建築デザインを競う、大学対抗の国際競技大会)でいくつもの賞を獲得した、すごい建物なのです。
中にいる人たちは、広いスペースで思い思いに過ごしているようですが、いったい、何の建物なのでしょうか?
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これはスペインのバルセロナの学生達が設計して組み立てた、持続可能な暮らしを提案する建物「RESSÒ」です。
国民性がのんびりしたイメージのあるスペイン。実際、ヨーロッパの中では経済成長が緩やかだったのですが、1980年代なかばにEUに加盟すると、著しい経済成長を遂げました。さらに2000年代はじめにユーロ通貨を導入したころから、不動産が高騰して空前の建築ブームとなり、ビルやアパートなどが次々と建てられました。
ところが2000年代後半に、米国のサブプライム住宅ローン破綻が世界に波及すると、スペインの不動産バブルも崩壊。その後スペイン経済は低迷し、若者の失業率が50%にものぼるような苦境に陥りました。その結果、街には新築同様なのに住む人のいない建物が残され、一方職を失い、住む家はおろか暖を取ることさえできない人々が増加するというアンバランスな状態になってしまいました。
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この状況を危惧して立ち上がったのが、バルセロナの若者たち。建築を学ぶ50人の学生たちが、「家を、街を、もっとシンプルで持続性のあるものにできるのでは?」「暮らしの基盤である住まいを最適化して資源を共有し、コミュニティを再生し、街をリフォームすることもできるのでは?」と考え、力を合わせて「RESSÒ」のプロジェクトに取り組みました。
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彼らの提案は、エネルギーを自給できるエコでシンプルな建物に集まり、地域の資源を共有して、街やコミュニティを持続可能なものに再生しませんか、というものでした。
たしかに熱効率のよい建物に集まって過ごせば、冷暖房だけ考えても、とても効率的。共同のキッチンで料理をして一緒に食べれば、食費も節約できて、一人よりも楽しいかもしれません。
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また、RESSÒは「生活の場」「集いの場」であるだけでなく、「学びの場」でもあります。持続可能な住まい方や、熱効率などに留意して建物を最適化する方法を、地域に伝える役割も果たそうとしているのです。
この居心地の良さに気付けば、ソーラーパネルや断熱方法などに興味を持ち、自宅でも取り入れよう思うかもしれません。建物の内装がないことで、骨組みが丸見えの建物の構造に興味を持つことになるかもしれません。つまり、建物自体が教材。しかも、内装費用がかからないので、建設やメンテナンス費用の削減にもなるんです。まさにエコな建物ですね。
では、この建物の各部がどうなっているのか、見てみましょう。
RESSÒは広さ10m四方、高さ7mの四角い建物です。外壁には、軽くて丈夫で見た目もモダン、それでいて安価なOSB(構造用の木質合板パネル)を採用。また、しっかりした断熱材を入れて、暑さ寒さ対策も万全です。
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屋根上にはソーラーパネルを設置し、自家発電を行います。屋根が部分的に可動になっているので、天気や気温に合わせて、換気や採光に必要な部分だけ開閉できます。かなりエネルギー効率が良いそうで、実際にこの建物で使うエネルギーは、ソーラーパネルと高断熱によって、ほぼ自給できるそうです。
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建物の内部は2m四方のモジュールで構成されているので、モジュールを入れ替えるだけで、建物の要素を付け加えたり変更したりということが柔軟にできます。
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部屋中央の広いスペースでは、談話したり、楽器を弾いたり、こどもが三輪車で遊んだり、ブランコに乗ったりと、皆さん自由に多目的に使っています。
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建物の内壁に沿って家具や収納スペースが配置されています。このエリアは上下2層になっていて、2階部分は少し落ち着いて過ごせるプライベートエリアになっています。
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建物の外まわりにはテラスがあるので、ここをステージにしてトークやライブなどのイベントにも活用できそう。ここに座って、道行く人とおしゃべりするのも楽しそうですね。
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コミュニティ作りの拠点と考えれば「エネルギー自給できるエコな建物でできた集会所」、共同住宅と考えれば「型破りなシェアハウス」、といったところでしょうか。学生たち自身がそういった場をつくりあげ、そして主体的にコミュニティ形成も行っているところは注目すべきポイントです。
例えば、イベントなどの準備をするために合宿したり、親元を離れた若者が就職や起業で落ち着くまでの居場所にしたり、食事時になるときまって現れる人がいたり、寒いときだけここで暖をとりつつ仕事する人が来たり……いろんなシーンが想像できます。誰が訪れてもこのコミュニティに自然と溶け込むことができる場をつくるということも、評価すべきポイントではないでしょうか。
生活を共にするということは、時間や空間やエネルギー、身の回りの物や食事、ときには人生の一部をシェアすること。「あなたは誰と、何を、どのようにシェアしたいですか?」「それで世の中は持続可能になりますか?」この建物を通じて、バルセロナの若者たちから、こんな問いかけがされているように感じられます。
Via:
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trendvisions.lancia.it
archdaily.com
hicarquitectura.com