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魚屋だった空き店舗は、何に生まれ変わったのか? HOUSE YUIGAHAMA

角舞子/ハロリノ編集部2018.4.24

鎌倉駅から長谷の大仏様へつながる「由比ヶ浜大通り」は、観光客はもちろんのこと、この地に暮らす地元住民が生活の中で日常的に行き交うローカルな通りでもある。その通り沿いにある、表向きは一見カフェのような「HOUSE YUIGAHAMA」。ところが一歩足を踏み入れると、壁一面の本棚や、カラフルな壁紙のサンプル、店内のあちこちに建材の値段が書かれたタグが貼られ、奥にはオフィスらしき空間も…どうやらただのカフェではないこの複合施設は一体どんな場所なのか? そのコンテンツとリノベーションがもたらした効果を探る。

 

オーナーはこの店で長年魚屋を営んできたが高齢になったため廃業。店舗は使われないままシャッターが降りていた。上階はオーナーの住居となっている。

 

商店街がシャッター通りになる理由

 

HOUSE YUIGAHAMAをプロデュースしているのは、鎌倉を拠点に不動産と建築を中心としたまちづくり事業を行うエンジョイワークスだ。同じ由比ヶ浜大通り沿いに事務所を構える。

エンジョイワークスが創業した東京の世田谷から、鎌倉のこの地に事務所を移したのは2011年のこと。湘南エリアのライフスタイルや家づくりに特化した事業を本格化させるためだ。今でこそこの通りには個性的な品揃えや店構えの個人店が次々とオープンし賑わいを見せているが、当時はシャッターの閉まった空き店舗も目立ち、ややさびれた印象だった。

昭和の時代、海水浴ブームと共に由比ヶ浜大通りは活況を呈し、別荘文化が花開き、この一帯に文化人や政財界の大物がこぞって邸宅を構えていた黄金期もあった。その頃から、あるいはそのずっと前から、代々に渡ってこの通り沿いで商売を営んできた店も多い。

しかし黄金期は去り、店主自身も高齢となって後継者不在で商売を縮小せざるを得なくなった。しかし地元で培った長年のつながりは生きているため、固定の得意先がいくつか残っていれば食うには困らない。そのような理由で、店のシャッターは閉まっているものの建物としては住居の用に供しながら存続している。同様のシャッター通り商店街は、現在日本のいたる所で見られるものだろう。

元魚屋だった店舗は間口が広く大きなスペース。魚を貯蔵しておく冷凍庫(右写真の銀色の部分)はリノベーション後そのままの形で男子トイレに。

鎌倉が幸運なのは、東京から電車で1時間という絶妙の位置だ。東京で高い賃料を支払いながら思い通りの商売を存続させていくことはかなり難しい。その点、鎌倉は東京の競争の苛烈さに比べればのんびりした環境だし、まちが小さいので必要な人脈を築くにも労力が少なくて済むし、観光地ゆえにまち自体の集客のベースがある程度担保されている。いきなり遠くの地方へ移住するより何かとリスクや負荷が少ない。かつて東京の中心地から自分らしい生き方を求めてヒッピーたちが西へ西へと移動したように、生き方や商いの新しい余白を求めて鎌倉に移ってくる人が増え始めた。

HOUSE YUIGAHAMAのプロジェクトが始まったのは、まさにそんな機運がさらに高まろうとする頃だった。この由比ヶ浜大通りでいちばんの老舗である米屋の主人からの紹介で、「魚文」という屋号の元魚屋のオーナーから、1階の店舗部分をエンジョイワークスが活用させてもらえることになったのだ。一般的な不動産の流通に乗る前にオーナーと直接このような話ができるのも、地元とのつながりがあればこそである。

壁一面の本棚に並ぶのは建築や家づくり、ライフスタイル、コミュニティなどに関する400冊以上の蔵書。カフェの利用者は自由に読める。

 

ここは何のための場所?

 

HOUSE YUIGAHAMAの入り口はライブラリーを併設したカフェだ。入ってすぐのカウンターでオーダーすれば、こだわりのコーヒー豆を使ったハンドドリップのコーヒーやオーガニックのフルーツソーダ、日替わりで焼き上がる手作りのマフィンなどがいただける。南に面した日当たりの良い店内の気に入った席に陣取り、本棚に並ぶ400冊以上にものぼる蔵書を好きなだけ読むことができる。

このライブラリーに納められているのは、建築や家づくり、庭、インテリア、コミュニティ、子育てや食などのライフスタイルに関する選りすぐりの本や写真集。自ら購入するには勇気のいる洋書も取り揃え、持ち込んだノートパソコンの隣にそれらの本を積み上げながら書き物をするお客様も見られる。

店内随所に散りばめられたタグには壁紙や塗装の費用、タイル、トイレの値段まで。家づくりのアイデアと共に何がどのくらいかかるのかを知るヒントに。

店内の壁や床に目を転じれば、値段が書かれたタグがあちらこちらに。「黒じゃない黒板 オーガニック黒板塗料 ¥1,550/㎡」「色も貼り方も組み合わせ自由 モザイクタイル ¥7,500/㎡」「もらいもの 扉 ¥0」など、室内を構成するさまざまな部材の価格や施工費などが記され、この施設丸ごと「建材のギャラリー」となっている。

日頃私たちは、家をつくるのに何が必要でそれぞれどのくらいの費用がかかるものなのか、よほどの家好きやプロでなければ知ろうともしないのではないか。家は買うもの、プロにつくってもらうもの、という固定観念があるのではないだろうか。なぜなら素人にはよく分からない世界で、だから家は高いのだと。

食や衣類なら話は別だ。野菜の価格が数十円上がっただけでも主婦はすぐさま気がつくし、価格と味とサービスのバランスで飲食店を評価したり、より自分に似合う服を納得できる価格で手に入れる術もいろいろと知っている。それはこれらの分野に関して私たちがこれまで日常的に無数の経験を積み、知識も知恵も十分に持っているからだ。

ところが食や衣よりも桁違いに高い買い物である「住」の分野になった途端に、人任せになるのはちょっと違うのではないか。自分の家を建てる機会は一般的に考えて一生に一度。他でもない自分の人生の大切な舞台となる家をつくるにあたって、私たちには、もっと家づくりにコミットし住みたい家を心底納得できる形で手に入れる自由があるはずだ。

カフェスペースの奥のガラスの向こう側はエンジョイワークス一級建築士事務所のオフィスとなっており、設計士たちが図面を描いたり、施主と打ち合わせをしたりしている。

「家づくりをジブンゴトにする」というのが、エンジョイワークスの考え方のひとつでもある。HOUSE YUIGAHAMAは、そのために家・住まいに関するリテラシーを高め、家づくりのヒントやきっかけを発見するための場所だ。

設計事務所というものは、まだまだ気軽に用もなく入れる場所ではない。しかし設計事務所と通りすがりの人をつなぐカフェ、ライブラリー、ギャラリーという仕掛けがあることで、家づくりへの間口は一気に広くなる。そうして家づくりに対し何かしらジブンゴトになった人は、HOUSE YUIGAHAMAの奥のオフィスでプロの設計士たちにいつでも尋ねることができるのだ。

多彩なテーマでイベントやワークショップを開催。そこから新たな人のつながりが生まれている。

人がつながるリアルなプラットフォーム

 

HOUSE YUIGAHAMAでは昼夜を問わず、多彩なテーマでイベントやワークショップを開催している。

日中は主に主婦を対象としたワークショップ。地元で活動している人が講師となって、例えばアロマ雑貨やステンドグラスのサンキャッチャーづくりなど、毎日の生活にちょっとした楽しさやセンスを加える内容で行なっている。

一方、カフェの営業が終わった夜の時間帯には、「SUNSET MEETING」と称したブレスト型飲み会を開催。例えば「空き家活用」「地域活動のマネタイズ」「ゲストハウスの始め方」「観光しない鎌倉の旅レシピを考える」など、毎回旬のテーマの下にさまざまな客層が集まる。東京や遠くの県からもわざわざ足を運ぶ人もいるほどだ。

物件オーナー、借家人、投資家が顔を合わせ互いのニーズを語り合う「そんな物件ねーよ!をつくる会議」は毎回満員。

なかでも開催するたびに参加者が殺到する人気のテーマが「そんな物件ねーよ!をつくる会議」だ。活用方法を模索中の空き物件を持つオーナー、自分がやりたいことを実現できる物件を探している借り手予備軍、面白い事業に投資したいと考えている投資家がHOUSE YUIGAHAMAで一堂に会し、お互いのニーズをぶつけ合うという内容で、実際にこのイベントをきっかけに生まれたシェアアトリエやホテル、カフェなどもある。

HOUSE YUIGAHAMAの店前にあるデッキスペースをチャレンジしたい人に向けて貸し出している。

また、由比ヶ浜大通りに面したHOUSE YUIGAHAMAの軒下のデッキスペースは、自分で何かやってみたい人に対して貸し出しをしている。現在はまだ自分の店舗を持ってはいないが地道な活動を始めており、いつかは自分の店を開きたいという人に対して、自分の商品やサービスのマーケティングも兼ねたチャレンジショップとしての出店を促している。

このように、HOUSE YUIGAHAMAは人と人とがつながるリアルなプラットフォームとしても機能しており、そのつながりから新しいプロジェクトや事業も誕生している。家づくりの発見を促す場であると共に、コミュニティやまちづくりへの導線も引いていく場となっているのだ。

リクエストしたメニューが社員投票によって選ばれランチに反映される「社食」。いずれは「まちの社食」として開いていく予定だ。

新たな試み「まちの社食」

 

最も新しい試みとしては、エンジョイワークスの社員向けに始めた「社食」が好評だという。社員がそれぞれ食べたいメニューをLINEを使ってリクエストし、その中から投票によって選ばれたメニューが翌週のランチになるという仕組みだ。事務所の近所に手頃な定食屋などが乏しく、ランチ難民になっていた社員たちにとって、希望したメニューが手作りで安く提供されるのはありがたいと連日売り切れが続くほどの人気ぶり。日頃あまり接点のない部署の社員同士がランチタイムの雑談でコミュニケーションを深めることができるのも利点だ。

リクエストの上位を占めるのは、生姜焼きや回鍋肉、カレーといった老若男女問わず好まれる飽きのこない定番が多い。この社食のクオリティを高め、いずれは鎌倉のまちの人も利用できる「まちの社食」として外向きに開いていきたいと計画している。

観光客はもちろん、地元の老人会のランチで使われることも。鎌倉を構成する多様な人々を引き付けるハブのような場所だ。

ひとつの家づくりからまちづくりまでをジブンゴトに

 

元は魚屋だった空き店舗をリノベーションした複合施設HOUSE YUIGAHAMA。それは自分自身の家に始まり、周囲を取り巻くコミュニティやまちづくりまで含め、「住む・暮らす」をとことんジブンゴトにするための仕掛けだ。単なる空き物件の物理的な再生にとどまらず、コミュニティやまちの再生、ひいては自分らしい暮らし方や生き方を自分自身で選び取っていくための「考え方のリノベーション」をも誘う。社名に「楽しい仕掛け」という意味を込めたエンジョイワークスの想いがそのまま形になったような、実にユニークで魅力的な場所なのだ。

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*HOUSE YUIGAHAMA 公式Facebook

https://www.facebook.com/houseyuigahama/

 

*SUNSET MEETINGで開催されてきたイベント

http://enjoystyles.jp/sunset/sunset.php

 

 

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