
少子高齢化が進むなか、全国で空き家が増加しています。地方創生を実現するためには、空き家など遊休不動産の再生利活用が重要です。国土交通省は近年、新しい不動産業の可能性を切り開くため「小規模不動産特定共同事業」を創設しましたが、登録事業者数は今年9月現在で48社*1とさらなる普及促進が求められます。この記事では、事業概要や創設の背景、事業例について分かりやすくお伝えします。(最新更新日:2023年2月26日)
目次
1. 不動産特定共同事業法とは
2. 小規模不動産特定共同事業者創設の背景
3. 地方創生における不動産特定共同事業活用の意義と事業例
4. 不動産特定共同事業成功のポイント・ファンド組成上の工夫
1. 不動産特定共同事業法とは
業務の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を図ることを目的に平成6年に制定された制度で、出資を募って不動産を売買または賃貸し、テナントに貸し出すなどして得た収益を投資家に配分する事業のことをいいます。
平成25年に不動産特定共同事業法の一部が改正され、倒産隔離型スキーム(特例事業)が導入されました。また、平成29年の法改正では小規模不動産特定共同事業(小規模不特事業)が創設されるとともに、クラウドファンディングに対応した環境が整備されました。これによりインターネット上での契約締結を可能とする電子取引業務に係る規定が整備され、事業者はインターネット上で一般の投資家からお金を集めてさまざまな事業を行うことができるようになりました。今後の成長拡大が見込まれる事業モデルです。
不動産特定共同事業者(許可制)主な許可要件
・資本金(第1号事業者:1億円、第2号事業者:1000万円、第3号事業者:5000万円、第4号事業者:1000万円)
・宅建業の免許
・良好な財産的基礎、構成かつ適確に事業を遂行できる人的構成
・基準を満たす契約約款(一般投資家を対象とする場合のみ)
・事務所ごとの業務管理者配置(業務経験や一定の資格が必要)
2.小規模不動産特定共同事業創設の背景
従来の不動産特定共同事業を手掛けるには、国や都道府県の許可が必要であるほか、資本金や監査などの条件もあり、参入のハードルが高いことが課題となっていました。さらには、地方創生に資する事業においてもクラウドファンディングを用いた資金調達が広がるなかで不動産特定共同事業も電子化への対応が必要であること、そして質の高い不動産ストックの形成を促進するためにも不動産特定共同事業制度の規制の見直しが求められていました。こうした背景から平成29年に法が改正され、投資家からお金を集めて空き家や古民家を再生する事業の規制を緩めて小規模な事業者の参入を容易にする環境を整えました。
小規模不動産特定共同事業者(登録制)に関する主な制限、要件の違い
・投資家一人あたりの出資額及び投資家からの出資総額がそれぞれ原則100万円、1億円を超えないこと
・資本金(小規模第1号事業者:1000万円、小規模第2号事業者:1000万円)
3.地方創生における不動産特定共同事業活用の意義と事業例
「地元の遊休不動産(公的不動産も含む)を、人の流入・雇用創出・地価上昇につながる施設に再生・整備したい」というニーズに対し、伝統的な資金の出し方では開発や融資側のリスクが大きく、また外部から開発事業者が現れても地元主導ではない画一的な不動産開発となる恐れがあります。
そこで、不動産特定共同事業を活用した「地域ファイナンス」や、共感投資による個人からの資金調達、投資家による施設利用・事業への継続関与により、単なる資金調達にとどまらず事業の好循環まで確保できる事業を生み出せる可能性があります。
(小規模)不特事業に該当する事業には、例えば下記のようなものがあります。
例1:遊休店舗・戸建等を取得し、再生後、事業者等に賃貸する
投資家からの出資をもとに空き店舗の所有者から不動産を取得し、リノベーション工事を実施後、宿泊事業者や店舗経営者などのテナントに賃貸し、賃貸事業から得られる賃料収益をもとに投資家へ分配を行う事業。一定期間運用後は、第三者等に売却して事業を終了し、売却益をもとに投資家へ配当を行います。

国土交通省「小規模不動産特定共同事業」パンフレットより
例2:土地を取得し、店舗・住宅等を新築した後、売却する
投資家からの出資をもとに、空き地となっている土地を取得します。その後、戸建住宅等の新築を行い、竣工後は第三者等へ売却します。その売却益をもとに投資家へ配当します。

4. 不動産特定共同事業の事業成功のポイント
投資家の共感を得るための工夫として「不動産特定共同事業の利活用促進ハンドブック」*3には次のようなポイントが挙げられています。
・金銭以外のリターンの提供
・プロジェクトの意義やコンセプトなどの積極的な発信
・地域のシンボル整備やエリア全体の価値向上を打ち出す
また、地域に求められる施設を地域資金によって整備することにより、投資を追求するだけでなく地域の資金循環を構築し、持続可能なまちづくりの実現が可能になります。さらに、官が大規模な修繕を実施した建物について民間に事業運営を任せたり、補助金の交付や地代の減額を実施したりすることにより、民間事業者単独では事業化できない場合でも官民が連携して事業に取り組むことが重要であることも述べられています。
国土交通省の資料によると、20年度の不動産特定共同事業法に基づく案件数は295件と、前年度の220件から1.3倍になりました。都市部と比べて不動産投資信託(REIT)の対象となりにくい地方にも、小規模不特事業の枠組みを使うことで投資資金を呼び込むことが期待できます。小口の投資資金を活用して空き家や古民家を地域活性につなげましょう。
関連資料
*1 小規模不動産特定共同事業者登録一覧(令和4年9月30日時点)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001482502.pdf
*2 国土交通省「不動産証券化の実態調査」
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00053.html
*3 国土交通省「不動産特定共同事業の利活用促進ハンドブック」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001411696.pdf
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