【インタビュー】唐品知浩さん、橋脚と河川敷のリノベーション「ねぶくろシネマ」の魅力って?
オモシロガリスト 唐品知浩(からしなともひろ)さんをご存知だろうか。調布市在住、3児の父。鉄道高架下の河川敷や使っていない時間帯のグラウンドなどの遊休スペースを活用した野外映画イベント「ねぶくろシネマ」の発起人。一方で別荘専門の不動産サイト「別荘リゾート.net」の運営、YADOKARI小屋部 部長、◯◯を面白がる会主宰…など活動は多岐に渡る。「不動産とその周辺」をテリトリーにユニークな立ち位置で活躍する唐品さんに活動の真意を聴きたくて、インタビューの機会をいただいた。
プロフィール
唐品 知浩(からしな・ともひろ)
別荘専門の不動産サイト「別荘リゾート.net」の運営、YADOKARI小屋部 部長、ねぶくろシネマ実行委員長、◯◯を面白がる会主催など幅広く活動。
別荘リゾート.net
YADOKARI小屋部
ねぶくろシネマ
葉山小屋ヴィレッジ(協働:エンジョイワークス)
目次
1.「小屋」にたどり着くまでい
2.「蔵らしさ」を残しながら、ギャップも感じてもらいたい
3. 古いものと新しいもので「蔵らしさ」の中に驚きを
1.「小屋」にたどり着くまで
唐品さんとエンジョイワークスの初めての取り組みは、2015年春の「葉山小屋ヴィレッジ」。YADOKARI小屋部 部長として、葉山の空き地でボランティアの部員の方々とDIYで小屋をつくっていただいたり、完成後の小屋でYADOKARI小商い部とお店を開いたり、実働・広報・アレンジなど全面的に協力していただいた。その結果、葉山芸術祭にも参画していたこのイベントは期間中のべ1000人を超える来場者で賑わい大盛況。それにしても唐品さん、なぜ「小屋」に行き着いたのか?
「僕はもともと新卒で旅行業界に入社しました。97年頃に旅行業界の格安競争あおりを受けて会社の経営が傾き、転職してリクルートに入りました。もちろん旅雑誌の『ABロード』志望だったわけですけど空きがなく。そしたら『住宅にも旅行みたいなのあるよ』って言われて『何ソレ?』と(笑)。で、配属されたのがリゾートマンションとか別荘を扱う媒体だったんですね。しかし、その媒体もリーマンショックと震災の後に休刊になってしまいました。専門性が高い内容だったし、そこで経験したことを生かし、独立して立ち上げたのが別荘専門の不動産サイト『別荘リゾート.net』なんです」
検索順位も上がり、反響もコンスタントに取れるようになって軌道に乗るも、やはり別荘やリゾートマンションはまだまだ一部の富裕層のもの。そこで「一般の人でも持てる、もう少しカジュアルな別荘を作りたい」と考えるようになった。考えついたのが「小屋」。地方には安い土地がたくさんある。そこにセルフビルドで小屋を建てたら、安く別荘が持てる世界が広がるのではと思った。
そこで、YADOKARIサポーターズという Facebookグループで小屋をつくってみたい人を募集したところ、30人を超える人数が一気に集った。2014年4月、大磯のビーチフェスタで、砂浜で期間限定のハンモックカフェを OPENすることになり、軽トラの荷台サイズで設営・撤去が容易な第1号の小屋を制作。するとすぐに家づくりのサポートサイト「SuMiKa」から声がかかり、半年後には虎ノ門の小屋展示場へ出展、2015年春にはエンジョイワークスとの「葉山小屋ヴィレッジ」、同年秋に長野で開催された「小屋フェス」へと繋がっていく。今では、唐品さんが手がけた小屋と屋台は、那須や外房なども合わせて35棟にも増えた。
2.「ねぶくろシネマ」の始まり
「小屋が盛り上がってきたところで、今度は本業の不動産をもう少し柔らかくやれないか?と『不動産を面白がる会』というブレスト型飲み会を始めました。それが、地元にも派生して『調布を面白がるバー』というイベントをコワーキングスペース”co-ba chofu”で始めました。調布は私も含めて越してきた新住民が多く、まちに対して不満や課題を感じている人も多くいるんです。だから、『まちの課題をつまみに、お酒を飲みながら議論する』と声を掛けたら思いの外、人が集まるんです。そんな会を何度かやっているうちに、市役所の方からお声が掛かりました」
調布市は都心で働く人々のベッドタウンの色合いが強いが、もう一つ「映画のまち調布」という顔もある。
「引っ越してきて最初聞いた時、調布には映画館がないのに、映画のまち?ほんとに?って思いましたね(笑)撮影所は2つあるんですが…。やっぱり映画のまちと言うからには、映画を観れる環境を整えたい。しかも、人口ボリュームで一番多いファミリー層が気兼ねなく映画を観られる環境を。そこで、市役所の職員の方もお呼びして、『調布を面白がるバー “映画のまち 調布編“』を開催したんです。その中で出てきた『多摩川の橋脚に映画を映して芝生の上で観たら気持ちいいんじゃないか』というアイディアを実践すべく、その2週間後にはもう河川敷で試写上映許可を取り付けていました(笑)」
これが「ねぶくろシネマ」の始まりだ。目当ての場所は、京王線が走る橋脚の下の多摩川河川敷。橋脚は京王電鉄が所有し、グラウンドは調布市、それ以外の河川敷は国交省が管轄していた。それぞれに問い合わせをし、目的を話し、場所を貸してくれないかと交渉した。
「京王電鉄さんには『橋脚を貸してくれなんて言われたのは初めてです』と驚かれましたよ(笑)でも、きっかけの調布を面白がるバーに調布市役所の方も来ていただいていたので、そのサポートもあって許可が下りるまでが非常にスムーズでした。その時すでに季節は10月の終わりで外は寒くなる一方でしたが、すぐやりたかった。じゃあ、寒くてもあったかくして実行しようと、焚き火シネマという案も出ましたがいくら何でも河川敷でそれは怒られる(笑)ということで、火を使わなくてもぬくぬくできる寝袋になりました」
上映する映画は、映画関連の仕事をする知人がいて、こちらも許可を得て借りることができた。記念すべき最初の上映作品は「しあわせのパン」。北海道の小さな町を舞台に、好きな場所で好きな人としあわせを分け合いながら生きることにした2人とそれを取り巻く人々の物語だ。「場にあった映画」にこだわり、映画の中に出てくるパンを調布市内のパン屋さんに焼いてもらい、スープも用意した。
この試みはラジオなどさまざまなメディアにも取り上げられ、2015年12月19日、第1回ねぶくろシネマの上映日には、河川敷の橋脚下に100人を超える人々が集まった。7分ごとに頭上を通過する電車の音に、聞き逃したくないセリフがかき消されないかとみんなでドキドキしながら、星空の下で身を寄せ合って観たこの日の映画は、きっと忘れられないものになったことだろう。
「子どもが生まれた家庭は、だいたい映画館に行かなくなるんですよ。途中で騒いだり泣いたりすると困るし。でも本当は自分の子どもと、人生の中でずっと記憶に残るような良い映画を一緒に観たいんです。野外なら多少うるさいのも許してもらえるし、たとえば満月の夜にその月明かりの下で『E.T.』を一緒に観るとか、野球場で『フィールド・オブ・ドリームス』を観るとか、絶対に印象に残りやすいでしょう。そういう”場”に合わせた展開を今後もしていきたい」
3.「面白がる」力がもたらすもの
ねぶくろシネマは現在、調布以外にもさまざまな場所を一夜限りの野外映画館にリフレーミングし、毎回テーマを設けた作品選びと仕掛けによって集客数を伸ばし続けている。「面白がる会」の方ももちろん継続しつつ、対象を他の町や”恋愛離れ”など課題に応じて拡大して展開中だ。
別荘リゾート.netに始まり、小屋、ねぶくろシネマ、面白がる会…と多彩な取り組みをしてきた唐品さんに、どうしても聞きたかったことを伺った。唐品さんにとって「面白がる」とは、何をどうすることなのか?
「面白がるっていうのは、本来なら自分に好ましくないことや自分の感性とずれていることでも、あれ、結構面白いかも…と気づくことができる力。僕の特徴は『圧倒的な前向きさ』だと思ってます。ネガティブなことをスーパーポジティブに捉え直そうとすると、どうしても固定観念とか既成概念をいったん外す必要があります。そして夢でもいいから理想の未来を描いてみる。面白そうだと思うことには、仲間が増えやすいんですよね。
多様性のあるいろんな人が集まって来て、どこからか助け舟を出してくれる人が現れる。すると動かないと思っていたものが、動いたりするんです。僕がやっていることは、人から見るといろんなことをしているように見えるかもしれないけれど、僕の中ではずっと一貫しているんですよ」
それは、全国で増え続ける空き家・遊休不動産に対し、みんなの力を持ち寄り、立場や既成の枠組みを超えてより良いものへ変えていこうとするWebサービス「ハロー!RENOVATION」の根底とも重なる姿勢だ。唐品さんは「ハロー!RENOVATION 」のアンバサダーの一人でもある。
「全国には使っていない空き家や空間がこんなにある。それを使いたいと思っているさまざまな人を繋いであげる横断的な仲介業ですよね。ハロー!RENOVATION上で、空き家についていろんな人が面白がって参加して、盛り上がっていってほしいです」