【インタビュー】まちづくりファンドを変える、国内初の不動産STO導入の舞台裏
「みんなで空き家問題を解決しよう」を合言葉に、エンジョイワークスが展開している「ハロー! RENOVATION」。今年2月、国内初の一般投資家向け不動産STOの運用を始めました。小さなまちづくり会社がSTOを導入する狙いとは。取締役で、ITという領域から地域活性をサポートするシステム開発部マネージャーの唐沢優に聞きました。
不動産STOを仲間づくりの仕掛けに
全国で空き家が増え続けるなか、利活用のあり方も多様さが増しています。そこで私たちエンジョイワークスは2018年、「ハロー! RENOVATION(以下、ハロリノ)」というまちづくり参加型クラウドファンディングのプラットフォームを開発。クラウドファンディングの仕組みを使い、空き家を利活用したい人と、それに共感する人、志高いお金を結びつけようと、さまざまな取り組みを行っています。
昨秋、国内初の不動産特定共同事業者としてエンジョイワークスが導入を発表した「STO(セキュリティー・トークン・オファリング)」もそのひとつ。「ファンドの個人間の持ち分譲渡を容易にするSTOスキームを利用することで、まちづくりの仲間をより増やしやすくなると考えた」と、導入理由について唐沢は語ります。
「地域で何かを始めようとするときは、みんなからお金を集めるだけでなく、運営に長く関わってもらえる仕組みづくりが大切です。そこで、不動産を小口化して投資しやすくする小規模不動産特定共同事業者登録を全国に先駆けて実施。その法律にのっとり、ハロリノの投資スキームを考えました」※1
不動産ファンドを活用した空き家再生が全国で始まるなか、ハロリノの運用期間は、ほかのファンドと比べて比較的長めの4、5年に設定しています。その根底にあるのは「プロジェクトを応援したい人たちが企画段階から参加し、“自分ごと”として長期的に関わりながらみんなで施設をつくる」という信念だといいます。
13のクラウドファンディングを達成するなかで、ファンド募集後に場づくりのコンセプトに共感し、「一歩踏み込んで応援したい」「投資家として運営に参加したい」と思ってくれた人たちをどう巻き込んでいくかという課題が浮き彫りになりました。「不動産のクラウドファンディングは、一度投資したら基本的に満期まで持ち続けます。それは自分の権利を証明して売買する仕組みがないからなんです。それを実現したのがSTOです」
データ改ざんが難しいブロックチェーン技術を用いた資金調達のニーズが高まるなか、日本でも昨年、資金決済法と金融商品取引法が改正され、STO取引のルールが整備されたばかり。唐沢らはすぐに導入を検討し、当時募集していた「<葉山>葉山の古民家宿づくりファンド」での利用を発表。日本初の事例として注目されました。
ハロリノの思想に触れてもらうための“日本初”
投資家が参加しやすい環境を整えることで、まちづくりの仲間を増やすことにつなげたいとハロリノに導入したSTOスキーム。不動産特定共同事業法(以下、不特法)に基づくセキュリティー・トークン(デジタル証券)を発行することで、出資持ち分の流動性を高め、個人間で譲渡しやすくなることが大きなメリットです。
セキュリティー・トークンの発行は、不動産情報サイトを運営するLIFULL(ライフル)とアメリカのIT企業Securitize(セキュリタイズ)が提供する発行プラットフォームを用いて行います。譲渡希望者はハロリノサイトに本人確認などの情報を入力し、セキュリティートークルームで「購入希望します!」「私の1口を譲ります」といった投資家と直接交渉します。「いくらで譲るかは投資家さん次第です。ぼくらがやってはいけないのは買い手と売り手を結びつけて、サイト上で譲渡が成立する環境をつくること。交渉が成立したら、投資家さんがエンジョイワークスにトークンの発行を依頼します」
そこで登場するのが、セキュリティー・トークンの移転ツール「L-SWAP」です。
まずはエンジョイワークスが出資持分をトークンとして発行します。葉山の古民家宿づくりファンドでは「Hiranoteiトークン(HRT)」が発行されます。続いて、L-SWAP上でトークンの譲渡を行います。希望者はトークンを譲渡される代わりにETH(イーサ)という暗号資産を投資家に送金します。このトークンと暗号資産の交換はブロックチェーン上のスマートコントラクトを介して同時に行われるため、一方の当事者による不履行を防ぐことが可能となっています。
この時点ではまだ、ハロリノトークンとイーサリアムを物々交換しただけでハロリノサイト上では投資持ち分がまだ移動されていないため、トークンが移動したという情報をこのあと取り込んでいきます。※2 ※3
「発行されるトークンは不動産特定共同事業法のファンド持ち分を表象しているものであり、販売するためには他のライセンスが必要となる暗号資産や電子記録移転権利には該当しないと整理されています」と、不特法上での不動産STOの仕組みを明かします。
「空き家再生への思いある人たちとのネットワークは全国に少しずつ広がっていますが、ハロリノ自体の認知はまだまだ。国内初として手を上げることで、STOへの興味関心から一般的な投資家さんもハロリノの思想に触れる機会となることを願っています。共感のもとに投資する“共感投資家”の輪がさらに広がっていったらうれしい」と、まちづくりへの参加を促すツールとして期待します。
新たな技術を武器に、地域の空き家再生に挑む
企画段階から地域の人を巻き込み、ともに進めるプロジェクトは時間や労力がかかるもの。それでも「参加型」にこだわるのはなぜでしょうか。唐沢は「みんなでまちづくりを、というゆるぎない思いがみんなにあるから。ハロリノの“空き家問題をみんなで解決しよう”という思いも、自分たちの経験則が背景にあるんですよね」と力を込めます。
「ハロリノがうまくやれているかはまだまだ分からないけど、最後までやりきろう、がんばろうと実現に向けて向かっていることは大きいと感じています。ぼくらは10年間、湘南の地で不動産仲介を地道に続け、設計、施設運営と少しずつ成長の裾野を広げてきました。エンジョイの社員はオンオフがないよね、とよくいわれますが、ぼくらの強みはそこにあると思っています。
たとえば不動産営業のスタッフは物件を仲介して終わりではなく、そのあとも友達として関係を続けていて、この地域のコミュニティを一緒につくる仲間を増やしていて。施設運営のスタッフは事業を通じて地域住民や団体と交流を持つことでコミュニケーションの大切さを感じています。社員みんなが、自分たちの仕事はコミュニティにつながっているということを日々体感しているんですよね」
社員みんなで試行錯誤を重ねながら積み上げてきた経験が育んだエンジョイワークスの企業文化。こうした土壌があるからこそ、地域住民たちがやりたいと思うものを一緒に考えていくハロリノの仕組みが生まれました。参加型クラウドファンディングを皮切りに、事業計画策定の無料オンラインツール「ハロリノノート」、自治体と人材を育成する「空き家再生プロデューサー育成プログラム」、第一線で活躍する教授陣による「次世代まちづくりスクール」の運営など、取り組みは多岐にわたります。
「全国各地に仲間や関係人口を増やしながら地域を活性化させるハロリノを技術面で支えたい」。ビッグデータと呼ばれる行動データをはじめ、機械学習・レコメンド、そして今回のブロックチェーン技術を用いたSTOなど、意欲的に新技術を採用するシステム開発部の挑戦は続きます。
※1 2019年、小規模制限のない不動産特定共同事業者許可を取得
※2 持ち分を譲り受ける第三者は、事前に「ハロー! RENOVATION」の投資家登録を行い、「<葉山>葉山の古民家宿づくりファンド」についての事前確認事項を確認することが必要です。「ハロー! RENOVATION」ウェブサイトにてご確認ください。
※3 発行されるセキュリティー・トークンは、不動産特定共同事業法第2条4項に定める不動産特定共同事業(1号事業)にもとづく出資持分を表象したものであり、金融商品取引業等に関する内閣府令第1条4項17号に規定される電子記録移転有価証券表示権利等に該当するものではありません。(金融商品取引法第2条2項5号ハにより上記不動産特定共同事業に基づく権利は金融商品取引法第2条2項5号に定める有価証券から除外されています
本記事はSTO導入について紹介することが目的です。投資勧誘を目的としたものではありません。