ハロー!RENOVATION

まちづくり参加型クラウドファンディング

物件オーナー、投資家、借り手が一緒に廃工場をリノベ。 桜山シェアアトリエ

角舞子/ハロリノ編集部

神奈川県逗子市の山間にあった廃工場が、アトリエやオフィス、ガレージ、遊び場などとして使えるシェアスペースへと生まれ変わったこの事例。それだけなら今ではよくある話だが、注目すべきはこの物件のオーナー、投資家、借り手の三者が一堂に会して互いのニーズをぶつけ合いながら一緒につくり上げたという点だ。プロジェクト全体をコーディネートしたのは、鎌倉を拠点に不動産・建築・ まちづくり事業に取り組むエンジョイワークス。立場の違う関係者がフラットにつながり尊重し合いながら、全員にとって良い結果を導き出したこのケースを紐解き、ハッピーな空き家再生のエッセンスを探る。

 

もとは電子部品の工場だった建物の正面はシャッター、奥に長く伸びた平屋建て。
内部の床はコンクリート、天井には飾り気のない蛍光灯と電気をとるためのレーンが。

 

廃工場の価値

その廃工場は、JR逗子駅から歩いて行ける緑深い住宅地の中にあった。電子部品の製造をしていたが、時代の流れで需要が減り廃業。一般的な不動産の視点では 価値のない古い建屋と、住宅なら4~5棟は建てられそうな広さの敷地が残され た。隣地では今まさにハウスメーカーによる建売住宅が建設の最中。当然、廃工場の売主もこの物件を土地として売却しようと考えていたが、近所の神社が持っ ている借地権付き土地であるため高くは売れないのと、工場だった建物を解体して更地にするとなると相応のコストがかかるため、まともに行けば利益はほとん ど期待できないというディールだ。

そう、従来の不動産流通の枠内で見れば、この物件はネガティブな条件ばかりの 厄介な代物だった。

そんなある日、エンジョイワークスの不動産営業がこの物件の内見にやって来 た。首から一眼レフのカメラを下げた20代と30代の女性営業2人。Tシャツとデ ニム、麦わら帽子にスニーカーという軽装の彼女たちを見て、廃工場の売主も、 売主側の不動産業者も「大丈夫か?」と思ったに違いない。先述の厳しい条件を ひと通り説明したがエンジョイワークスの2人はものともせず、廃工場の佇まいと、内部に残された擦りガラスの古い建具や長年の作業で味わいの出た机、無骨な配電盤などを見て目を輝かせた。

 

今や金属や樹脂のサッシがすっかり台頭してしまった中で、木枠にはまった擦りガラスに出会えた奇跡。
そこへ無造作に打ち付けられた配電盤はすでにアート。

 

「この建物を壊さないで、そのまま残してもらうことはできるんでしょうか?」

「こういう古い建具や道具を譲っていただくことはできるんでしょうか?」

売主にしてみれば渡りに船である。 明日には廃棄業者に有料で引き取りに来てもらう段取りだった残置物をそのままにしておいてほしい、廃工場の建物の解体も要らないというにわかには信じがたい話に売主は戸惑っていたが、2人のテンションの上がりように次第に心が変わってきた。

「こんなガラクタを欲しいという人が本当にいるのなら、自由に使ってもらって 構わないよ。どうせ処分する予定のものだったんだ。建物もできればそのまま活 かしてもらうのがいちばんありがたい」

駅から歩ける距離にある、良い感じに古びた廃工場。大きなトラックも横付けで きるエントランス。内部には、今では手に入れることの難しい木の建具や、人が長い年月をかけて実用して来たからこそ出た艶のある古道具まで詰まっている。 しかも相場より格安だ。こんな物件、探してもそう簡単に見つかるものではない。既存の不動産の視点に捉われず何を価値と見るかによって、空き家はポテン シャルの高いお宝に変貌する。

 

鎌倉の由比ガ浜通りにある「HOUSE YUIGAHAMA」で、物件オーナー、投資家、借り手候補者たちが一堂に会するイベントを開催

 

探しても見つからないなら物件をつくろう

廃工場の発見からしばらくしたある土曜の夜、鎌倉の由比ガ浜通りにあるエンジ ョイワークス運営のカフェ「HOUSE YUIGAHAMA」でユニークなイベントが開かれた。「そんな物件ねーよ!をつくる会議」と題されたこのブレスト型飲み会 には、それまでエンジョイワークス不動産部に物件の相談に来たこともある、特殊な物件を探している借り手候補たちが大勢詰めかけた。

中でも最も多かったのが、「工房・アトリエがほしい」という要望を持つクリエ イターやアーティストたちだ。鎌倉・逗子・葉山などをはじめ、湘南エリアには ものづくりやデザインなどを行っている人々が非常に多く、住居とは別に、音や スペースを気にせず思い切り創作活動に打ち込める場所をほしがっている。しかし、ふつうの居住用物件が圧倒的多数を占める一般的な不動産の流通では、この ような活動が許される賃貸物件はなかなか出てこないのが現実だ。

 

借り手候補、物件オーナー、投資家が、お互いのニーズを直接話して知ることができる
「そんな物件ねーよ!をつくる会議」は超満員。

 

この夜のイベントには、彼らの他に、なんらかの物件を所有している数名のオー ナーや、単なる利回りだけではなく面白みや意義のある案件に投資したいと考える投資家も参加していた。自分たちがいかに創作の場に飢えているかを熱く語る クリエイターたちを目の当たりにし、物件オーナーや投資家たちは、そんなニー ズがこれほどまでにあったのかと驚いた。

そこで、あの廃工場である。

あの建物を、クリエイターたちが使えるシェアアトリエにしたら良いのではない かというアイデアが、少し前にエンジョイワークスからある投資家に提案されて いた。今まで主に都心のマンションなどに投資して来た投資家には半信半疑の提 案だったわけだが、マンション投資も旨味が少なくなって来た今、高利回りはもちろん、それ以上にもっとワクワクするようなエモーショナルな手応えが得られ たり、自分のお金が誰かを助けることになるなどの意義ある投資をしたいと思い 始めている投資家にとって、この夜、シェアアトリエへのニーズは確信へと変わ った。

こうして廃工場は投資家によって購入され、その投資家自身が物件オーナーとな って、シェアアトリエへとリノベーションされることになった。

 

オーナー側はベニヤ板でブースに区切っただけで、各室内は借り手が自由にDIYでき原状回復も不要。
工事費を抑えたことで賃料も安く設定できた。

 

DIYできる楽しさも含めて物件の価値

いよいよ廃工場のリノベーション工事が始まった。 しかし工事と言っても、基本的には建物の内部を15ほどのブースにベニヤ板を立 てて区切っただけ。各ブースの内部は借り手が自由にDIYでカスタマイズできるようにした。

「そんな物件ねーよ!をつくる会議」でも分かったことだが、ものづくりが好きな人たちというのは、はじめから全てガチガチに整えられたピカピカな物件など 求めていないのだ。自分らしく手を加えられる「余白」という緩さこそ、彼らが 非常に重きをおく価値なのである。

逆に物件オーナーにとっては工事費が抑えられるという大きなメリットがある。 トイレやシャワーブース、団欒スペース、キッチンなどの共用部分は整えたものの、床はコンクリートのままでいいし、みんなで使うテーブルなども売主から譲 り受けた古道具でまかなった。その分、賃料は1ブース月額2万円ほどと安く設 定。住居の他に、アトリエにはそれほど多くの賃料を払えないというクリエイタ ーたちの懐事情もイベントで把握してのことだ。

 

リノベーション工事の様子を日々SNSで発信しながら、工事中の状態で募集や内覧を開始。
今まさにつくっているという臨場感がDIY心も掻き立て、完成前に全てのブースが埋まった。

 

つくっている過程を見せながら募集開始

シェアアトリエの入居者募集は、リノベーション工事の途中から開始した。日進 月歩でできていく工場内のラフな様子をSNSで発信しながら、DIYやものづくりへ の意欲を刺激。記事を上げるたびに問い合わせが殺到し、入居希望者が多すぎる 場合は、団体見学の日まで設けることになった。見学すれば余計に借りたくな り、その場で申し込みを入れる人が続出。その日のブースの残数もSNSで発信され、数が減っていくごとにさらに問い合わせは増えた。

こうして半ば取り合いのような形で、リノベーション工事が完了する前に全ての ブースは埋まってしまった。これは物件オーナーにとっては何よりの喜びだ。1ブースの賃料は2万円だが、満室であれば月額30万円の収入になる。物件購入費とリノベーション工事費が抑えられたので、空室が多くならなければ、投資は数年もあれば回収できるという、投資家目線で見ても驚異的な利回りである。

 

みんなでペンキ塗り

 

完成した内部

 

施設の仕上げのペンキ塗りはDIYイベントを開催し、入居者たちみんなで行った。
共用部には薪ストーブを設置し人が自然に集まる仕掛けを。

 

コミュニティが醸成されることで持続的な場所に

リノベーション工事も佳境を迎えた頃、シェアアトリエの入居者たちが集まっ て、施設内の壁の塗装をみんなで行うというDIYイベントが開かれた。プロのペイ ント集団である「PORTER’S PAINT」のスタッフに講師を務めてもらい、プロの 塗装技術の一端を学びながら共用部をみんなで仕上げるという内容だ。自分たち が使う場所を、自分たちの手で一緒に塗っていくという作業で、入居者たちは自然と仲良くなっていった。

シェアアトリエが完成すると、物件オーナーはオープニングパーティーを開き、 入居者たちと一緒にこの施設の誕生を祝った。オープン当初の入居者たちの顔ぶ れは、彫金・ガラス作家、デザイナー、イラストレーター、ロードバイク愛好家、アロマセラピストなど多彩。ものづくりをしている人以外にも、自分の趣味 や活動の拠点として利用するアクティブな人々が集まった。自発的に何かをする のが好きなメンバーなので、入居者たちはしばらくすると自分たちで施設の名前 を考え、メンバーの得意技を持ち寄ってWEBサイトをつくったり、マルシェを開いたりし始めた。このマルシェにはシェアアトリエの近所の人たちも訪れて交流が生まれ、相互理解が図られたことで、ともすると騒音など何かとクレームがつきやすいアトリエ特有のリスクも低減することになった。このように地域に良い 影響をもたらし、温かい目で見てもらえることも、場が持続していくための大切な要件だ。

こうした自主性のあるコミュニティが生まれたことで、物件オーナーにとっては 施設の運営が非常に楽になった。しかも、空室が出ても、コミュニティのつなが りからすぐに紹介があって入居者が決まる。将来、万が一この場所でシェアアト リエのニーズが乏しくなり空室がカバーできなくなった時には、住宅用地として 売却するという出口もある。しかしこの調子なら、それまでには初期投資はほぼ 回収されているだろう。

 

ブース内は個性豊か。写真はガラス作家とアクセサリー作家のブース。

 

共創による物件づくりが不動産流通の構造を変える

このように桜山シェアアトリエの事例は、従来ならば、「売主→物件オーナー→施 工者→借り手」のような、上流から下流へ一方向に流れる物件の供給構造を、関 係者全員が同時に輪のようにつながり合う形へとリノベーションしたと言っても 過言ではない。それぞれがそれぞれの目の前の利益や、隣り合う人との利益だけ を考えるのではなく、全員が全体性を俯瞰した上で、自分にとってのメリットと 関わるみんなにとってのメリットをどちらも成立させようと意図すること。それ はより多くの人を幸せにする、より大きな成果へとつながっていく。ハッピーな 空き家再生の鍵は、このような「共創」の考え方にあるのかもしれない。

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