山崎亮さん vol.2 私たちが、大量生産のハコモノを必要としない理由
公共の“場”づくりについて、コミュニティデザイナーの山崎亮さんにお話をうかがうインタビュー。vol.2の今回は、”コミュニティデザイン”、つまり“人がつながる仕組み”のノウハウについて、その一端をお話いただきます。
山崎 亮(やまざきりょう)
https://studio-l.org
studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。
目次
1. ワークショップの参加人数が減っていくのは必然的で、必要なプロセス
2. 参加してくれる人の想いの強さを見極め、無理なく参加できる仕組みを示す
3. 境界線に壁を建てる代わりに、人を立てる。そんな時代へと向かってゆこう
4. 私たちが、大量生産のハコモノを必要としない理由
*接頭辞リ(re-)には、「再び」の意味がある
1. ワークショップの参加人数が減っていくのは必然的で、必要なプロセス
――前編で、ワークショップをする際は「事前に地元の方と友だちになる」とお話しいただきました。それは、コミュニティをつくるうえで、どんな効果を発揮するのでしょうか。
山崎亮さん(以下、山崎):ハードルを下げる効果はありますね。ただし、ワークショップは回を重ねるうちに、必然的に人数が減っていきます。これはどうしようもないことです。でも、こんなことを言うとおかしいかもしれませんが、減ってゆくことには良い面もあるのです。
――普通は、自分たちが開催するワークショップの人数が減っていったら、寂しかったり不安に思ったりしますよね。
山崎:もちろん僕らもショックを受けます。ただ、地域に入ったときには「誰が最後まで残る人なのか」を見極めるプロセスが、とても大事なのです。参加者が減ってもあきらめずに毎回来て、ポツンとひとり座っている人は誰か、特にリーダーシップがあるわけではないけれど、たまにボソッと言うことに説得力があるのは誰なのか。ワークショップを重ね、人が減るなかで、そういうことが見えてくると、誰に思いきり情報を注入したり、思いを伝えたりすれば良いのかが、やっと我々に分かるのです。それはたった5人かもしれません。「100人が5人になったけれど、まだやるんだ」というところからが、第2のスタートで、本当の始まり。そのメンバーには、ガチな話をしてもよいということです。
2. 参加してくれる人の想いの強さを見極め、無理なく参加できる仕組みを示す
――ワークショップの参加者は、みんなまちに対する想いがあって。でもその気持ちにはグラデーションがある……ということですね。
山崎:そう思いますね。参加者とまちづくりとの関係性の強さには、グラデーションがあります。最初のうち、後から入って来た僕らには人々の想いなんて当然見えないし、本人でさえ自分の想いの強さを分かっていないこともある。ワークショップは、それを見極めるためのスクリーニング(選別)の意義もあります。
――ワークショップはノウハウを授ける場と思っていたのですが、実は想いを見極める機能もあるのですね。
山崎:ワークショップには、形成期、混乱期、秩序期、機能期という段階があって、どれもが必要なプロセスなのですが、混乱期には、それを嫌だと思った人がポロポロ抜けてゆく。混乱期があったのにまだ来ている人は、相当想いが強いわけです。それを見極めたうえで、想いの強い人たちを中心に、新たなグラデーションを構築してゆきます。
――確かに、想いが強くないのに重責を背負ってしまったり、逆に人一倍想いが強いのに、そのことに気づいてもらえなかったりするなどのアンバランスがあると、プロジェクトがうまく運ばない気がします。
山崎:いろんな人がいてよいのです。密には関われないけど、ワークショップには来てあげるという人と、イベントをやるんだったら参加するよという人、行けないけどお金で応援する人や、労力もお金も出せないけど少なくとも足は引っ張らない人。このグラデーションが分かりやすく周知できて、「私は最近暇だから、中心まで入っても良いな」とか、「俺は子育て中だから、今は3つぐらい階層を下がって遠くから応援するよ」とか、フレキシブルに関わり方を選んでいく。コアメンバーやサポートスタッフがそれを把握できれば、いろんな関わり方の人を巻き込んでプロジェクトを進めていけるのです。
まちを良くしたい、みんなが集う “場”が欲しいとは、誰もが思うこと。でも、実際に“場”をつくる過程には、さまざまな困難があります。時間がかかることへの忍耐力が必要だし、意見の対立もあるでしょう。そのプロセスで最初のワクワク感を失い、離れてしまう人もいるはずです。コミュニティデザインの現場では、それを当然のことととらえ、許容しています。そして、それでも残っている人の強い想いをしっかりと受け止めます。
普通ならプロジェクトが躓いてしまいそうなタフな局面を冷静に分析し、さまざまなグラデーションにいる人の想いを汲み取る方法を“仕組み化”したところに、山崎さんならではのノウハウがあります。
3. 境界線に壁を建てる代わりに、人を立てる。そんな時代へと向かってゆこう
――山崎さんはモノをつくらないデザイナーといわれることがありますが、これからのコミュニティづくりにおいて、建物との関係はどのように変わってくるでしょうか。
山崎:機能の面からいうと、空間はコミュニティの存在や、その活動を強力に後押しするツールだと思いますね。一方で、コミュニティに空間が取って代わることは考えにくいです。
――“空間”は、そこにコミュニティがあれば、意義のある“場”になるけれど、“空間”さえあればよいわけではない……ということでしょうか。
山崎:そうですね。ところが日本を含め世界中で、空間が先にあり、それが人のつながりや活動を生み出したり、規定したりすると信じた20世紀がありました。モダニズムというのは基本的にそれでできあがっていると思いますね。たとえばひとつの大きなワンルームがあったとしましょう。2つのグループが同じ部屋で会議をやっていて、声がうるさい。そうすると20世紀的な考え方だと、部屋に壁を建てます。これは便利である反面、不自由にもなるわけです。壁を建てるという行為によって空間が2つにわかれるけれども、ひょっとしたら壁ではなくて人を立てるのでもよいかもしれない。
――コーディネーター的な人ですね。
山崎:そう。「今日はこの人たちはこっち側で、あの人たちはあっち側で話し合ってください」というコーディネーターがいる方がよいのか、壁を建てる方がよいのかというようなことは、本来は並列に考えられるべき選択肢です。20世紀のモダニズムの世界では、空間が人の活動やコミュニティのあり方を規定すると信じ過ぎていました。
――壁を作ってしまえば空間は狭くなり、可変性もなくなります。モダニズムは、その不自由さよりも効率性を選択したのですね。
山崎:それも、当時は必然性があったのだと思います。先進国において人口が短期間に膨大に増え、増えた人口が都市部に集中しているのに、そこにコーディネーターを1人ずつ立てましょうとか、住民参加でワークショップをやりましょうというのは時間的に無理があります。機能的に空間を分けて、いち早く大量にハコを供給することが必要な時代だった。機能主義的な空間の作り方というのも、時代の要請だったのでしょう。
4. 私たちが、大量生産のハコモノを必要としない理由
――逆に今は、日本を含む先進国では人口が減少している時代です。
山崎:考え方を変えるときに来ているのです。たとえばDIYひとつとってみてもそうです。みんなで DIYをするコミュニティービルドという方法は、モダニズムの概念からすると効率が悪いことで、クオリティーが下がること……それ以上でも以下でもない。ところが、そもそも私たちは空間を提供する効率が必要な時代を生きていませんよね。では何が必要なのかといえば、満足感だったり、つながりだったり、その後の活動や事業が生まれることだったりする。それなら、手間がかかった方がつながりが生まれるだろうし、役割が生まれるだろうし、時間がかかった方が信頼関係が生まれるでしょう。ならば、大量供給で効率的にできるハコよりも、みんなでDIYした方が良い。そんな選択肢が見えてくる気がしますね。
空間に壁を建てることと、人を立てること。どちらも選択できるとすれば、あなたはどちらを選ぶでしょうか? 人とのコミュニケーションや、手間をかけることを面倒だと思うのではなく、新たな“関係”や“場”をつくるためのチャンスだと思うこと。そこに未来の手がかりがあるような気がしないでしょうか。効率や機能重視の時代から、つながりが大切にされる時代へ。変化の必要性を感じ取っている人はまだ少数かもしれません。だからこそ山崎さんはいくつものプロジェクトを手がけ、コミュニティの必要性を示し続けているのでしょう。
5. 山崎亮さんにとってのリノベーションとは?
山崎:リノベーションは言葉を分解すると「リ・イノベーション」ということで、かつて既にイノベーションが起きていることが、前提ですよね*。前の世代のイノベーションを、もう一度僕らの時代でリノベーションするというスタンスが好きです。前にあったイノベーションへのリスペクトが入っているような気がします。
*接頭辞リ(re-)には、「再び」の意味がある
僕らの仕事であるコミュニティデザインに置き換えて考えてみると、たとえ元気がない地域でも、その時代ごとにイノベーションは起きているわけです。それが、企業誘致だったかもしれないし、住宅団地の建設だったかもしれないけど、地域が大きく変化した節目はあったと思います。現代には効果がなくなってしまったけれど、その地域にはかつて住民によるイノベーションが起きていた。そのことをリスペクトしつつ、今の住民のみなさんと地域にリノベーションを起こす。それをお手伝いするのが、コミュニティデザイナーなのかなと思いました。
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