重い障害があっても地域で暮らし続けたい。多摩川とともに生きる、つながる、やさしいまちづくり

重度障害者の地域密着の住まいづくり「たまよんガーデン・コミュニティープロジェクト」(通称、たまよんプロジェクト)が、次世代まちづくりスクールの受講生、速水葉子さんの主導で始まります。2021年夏にオンラインで開催されたイベント「たまよんプロジェクト キックオフイベント」で語られた内容をもとにレポートします(*1)。
こちらからYouTubeでもご覧いただけます。

舞台は、世田谷区玉川4丁目(たまよん)の速水さんの実家です。速水さんの娘、雅子さんは重症心身障害者。地域に育って30年余り、表情豊かで声も出ますが、座位、立位はとれず全介助が必要な状態です。ここ数年、障害もさらに重くなり医療的ケアが必要になるのも目前です。また速水さんの老いとともに「親なきあと」の課題も見据え、グループホームでも同居でもない、自立した住まいをつくりあげていこうと考えています。

在宅医療的ケアやグループホーム。必要なのに取り組むことは簡単ではない

全国の障害者は現在約936万人(*2)。人口比率7.4%と多く、年々増加傾向にあります。特に急増しているのが、在宅の医療的ケアが必要な子どもたち。今後ますます対応が迫られる「医療的ケア」と現在不足している「グループホーム」について少し触れましょう。

医療的ケアとは、医師や看護師が行う医療行為を、自宅で家族らが日常的に行っているケアのことで、痰の吸引、人工呼吸器、経管栄養などをさします。医学医療の発展もあって、医療的ケアの必要な18歳未満の子供の数は10年で2倍となりました。救える命が増えるのですから、こうしたケアを手当しながら育ち、暮らせる社会環境が当然求められます。法改正によって、大型施設から地域の小規模なグループホームへの流れがつくられ、近年少しずつ広まっている障害者のグループホームは、障害のある人たちが援助を受けながら地域で共同生活を営む、障害者総合支援法に基づく施設です。

しかし障害が重度であれば、あるほど人手もかかり、事業としての採算性は低くなります。そこに医療的ケアが加わるとさらに難易度が高まります。事業性と社会の受け入れ体制の敷居が非常に高いのです。

世田谷区で実質的な医療的ケアができるグループホームはまだありません。福祉の課題は福祉だけで、医療の課題は医療だけでは、解けないのです。同じ思いをもつ親御さんと速水さんが数年前立ち上げたNPO法人ソラマが目指すのは「だれもが普通に生きられる、つながる、やさしいまちづくり」。障害の有無に関わらず、普通に住まい続けられる、そして地域に開かれた場の実現です。しかし、世田谷区で重度障害者の住まいを提供する事業を始めるにも地代の高いこの地域では、土地を借りるだけでも困難をきわめます。そこで速水さんは、空き家となった実家を使ってご自身が経営する会社(株式会社澤石商店 不動産賃貸業)の事業として、グループホームとは少し違ったかたちで取り組んでみようと決めたのです。

まちには二つのつながりが必要。自立した住まいの実現に向けて

自立した住まいに必須の項目。まず「ケア施設・事業者とのつながり」。ケアを提供する人材を備えた事業体です。特別支援学校を終えた18歳以上であれば、日中を過ごす通所施設や作業所、そして帰宅後住まいに帰ってからのケアにあたるヘルパーを供給する介護事業所が必要です。ケアする人には、医療的ケアを含め障害者本人の発する細かなサインに気づき対応ができる高い介護技術が求められます。こうした人材を継続的に確保できるがどうかで重い障害者の住まいの永続性が決まるのです。速水さん自身も直面している課題です。

もうひとつは「地域とのつながり」。地域の人や環境との関わりを持ち「普通に暮らす」ことを、重度の障害があっても享受できる社会であってほしい。雅子さんは幼児期から、「地域の同年代の子どもといっしょに過ごすこと」を大切にして育ってきました。幼児期の地域の保育園での交流、養護学校に通いながら過ごした学童での原体験はいっしょに育つことの大切さを教えてくれたといいます。こうした関係性や社会性が、障害者の家族なきあとも維持できることを目指しています。そこでもし障害のある人の住居自体が地域をつなぐ場としてうまく機能する仕組みがつくれれば、まち自体の活性化にも貢献できるし、自然と融合する風景が生まれるのでは……というのが速水さんの思いです。住みやすいまちは、自分にとっても娘にとっても宝となるでしょうと。

「たまよんプロジェクト」を進める世田谷地域の特性について、速水さんはこのようにいいます。「近隣は国分寺崖線が作り出す自然が豊かで緑が多く、多摩川の川辺の開けた環境が気持ちよいです。自然がありながら、歴史・文化的な拠点も数多く、徒歩圏内にショッピングセンターも充実しています。このプロジェクトをすすめる過程でつながりを大切にする人たちにも自然と出会えるようになってきたというのも心強いですね。自身の実家でプロジェクトをかたちにできた後には、地主さんや、物件オーナーの多いこの土地柄を活かし、障害のある方もはいりやすい物件づくりを進めていきたいと、不動産業との連携も検討していきます。課題を共有できる人たちと、広域で取り組んでこそ、大きく解決に向けて前進することができるのだと思います。

どのように共感を広げていくか。共に取り組む仲間を広く歓迎しています。先行事例として始まる今回のプロジェクトも、近隣や周辺地域に拡大できてこそ、障害者の自立も広まります。ひいてはそうした動きが、事業の継続性を促進し、障害理解といった本質にも近づけることでしょう。

地域の大人が地域の子どもを見守るように。人と人とのつながりはひろげることができる

地域での交流やプロジェクトの相談を通じて速水さんをよく知る、村上ゆかさんと安藤勝信さんにうかがいます。「たまよん」のある世田谷南部エリアですでに場づくりやコミュニティづくりに携わってきたお二人は「人と人のつながり」を実践してきました。

村上ゆかさん(NPO法人せたがや水辺デザインネットワーク、せたがや水辺の楽校)は、地域の子どもを水辺や自然の遊びを通じて育てる活動をされてきました。村上さんは「楽しさでつながる活動」として速水さんが続けてきた「打楽器のクラス」で知り合われたそうです。この1年は、「たまよん~速水さん実家」に住むことで、空き家だった速水邸を次の活躍の場を待つ「まちおどり場」として、庭の自然とアートを中心に交流の場として活用してくれています。彼女のまわりに集まる人たちが自然にたまよんにもつながり始めています。

速水邸に描かれたハートマークは、二子玉川でハートストリート(https://heart-street.jp/ )という活動されているアーティスト、西村公一さんによるもの。アートも人をつなげる力がありますね。村上さんは、つなげるきっかけづくりも実現力も素晴らしい方です。

村上さんは世田谷区出身ではないものの、仕事で出会ってこの場所が気に入って住み始めてから「地域とのつながり」を紡いできた実践者です。このまちで暮らす人とコミュニティの特性について、昔からの住民が、外から入ってきた人との交流や、変化を受け入れる雰囲気があったといいます。

ゲストのもう一人が、安藤勝信さん(株式会社アンディート)。コミュニティの力を中心に添えて、賃貸物件のリノベーションなどの不動産事業を手がけられています。安藤さん自身が、さまざまな仕掛けを行っています。安藤さんが感じているのは、先に住まい手を探す。人が先にいて活動することの大切さ。例えば住まい手と一緒にDIYを行うことで住民同士が知り合い、自発的なコミュニティが形成さたれる流れをつくったり、単身女性の認知症のお母さんをほかの住民みんなで見守ったり。また安藤さんの二拠点住まいの住まい先の長屋ではいろいろな家族がみんなで子育てをしているとのこと。ひとりひとりと知り合っていくことでまちの解像度が高まってくと感じるそうです。

現在進行中の世田谷区のプロジェクトでは、道路で分断されてしまった敷地を逆に利用し、母屋となる下宿屋の向かいに小屋型の小さなシェアハウスが点在するというユニークなデザイン。村上さんがシェアハウスと母屋をつなぐ役割を果たすとのこと。これまでもお二人は、安藤さんがオーナーとなった長年の空室アパートをリノベーションして高齢者デイとして再生するプロジェクトでも畑を近隣に開放し、村上さんが使えるキッチンやアトリエをつくるなど、協力し合ってきました。

安藤さんのご実家は大蔵エリア。土地は駅から遠く、これまでの不動産市場的な価値観で測るならば難しいところだったようです。それが駅前の建物が立ち並ぶ地域より、駅から遠くても自然が残る魅力がむしろ評価される世の中になってきたといいます。一方そうしたエリアの価値を食べ尽くしてしまうような開発が起こりうるという、あやうさも感じているそう。安藤さんのように建築不動産というハードとソフトな活動の双方を扱える方なら、課題を今までにないかたちで解決できるのではと期待します。

多くの方と対話し力を借りる。まちづくりと福祉の課題にご参加ください

速水さんのプロジェクトは、心強いつながりから始まります。近隣のみなさんももちろん、ハロリノを通じて知るあなたの声も活かしていきます。さまざまな意見や知見が必要です。近年の気候変動による水害への備えも福祉や不動産の知見と密接ですし、別の地域で同じくチャレンジをされる方々とも情報を共有していきたいです。しっかりと多くの方々とチームとして向き合うことで、課題解決の精度も速度も大きく向上すると信じています。「たまよんプロジェクト」は、多くの方々にご自身の課題に照らして関わっていただけると嬉しく思います。


*1
冒頭のイラストはNPO法人ソラマのウェブサイト( https://www.sorama.org/ )の画像を引用掲載しています。「地域に開かれたグループホーム」をイメージして2016年にソラマが制作したもので、本プロジェクトの構想ではありません

*2
厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」の調査結果を反映させた日本の障害者の総数(推計値)936.6万人(人口の約7.4%) http://www.mhlw.go.jp/
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