障害が重くても、地域で自分らしく生きる。だれも孤立させない、みんなの居場所と出番づくり

速水葉子さんが取り組む重度障害者の地域密着の住まいづくり「たまよんガーデン・コミュニティプロジェクト」(通称、たまよんプロジェクト)は、来年春の開業に向けていよいよ本格的に動き出しました。
たまよんで行うのは、重度障害者の方が1人で借りられる賃貸住宅の事業。実際にそれはどのような場所なのか、そして乗り越えなければならない課題とは何かを考えます。

2021年11月にオンラインで開催されたイベントで語られた内容をもとにレポートします。
こちらからYouTubeでもご覧いただけます。

<速水さんの企画意図>

重度の障害者、ことに日々医療的ケア(吸引、経管栄養、胃瘻、導尿、人工呼吸器など)が必要な人たちが、自宅以外で過ごせる居場所が全国的にまだ大変不足しています。就学前、学童期であれば、通所できる場や放課後過ごせる場所が、また特に学童期を終えた成人となると通所先も、使える社会資源も極端に選択の幅が狭まります。そうした中で、介護を最大限担う家族のケア力が衰えると今の制度では、地元での生活が難しくなり、選択肢がないまま、遠く離れた空きのある場所へ移らざるを得ません。それがいわゆる「親亡きあと」問題です。

日々、介護に追われる家族は目前の課題に取り組むだけで、手一杯になりがちですが、自分たちの生活や行く末とあわせてケアの道筋がみえていたら、どれだけ気持ちも楽になり、また世代を超えての情報交換や協力体制が組みやすくなるだろうか、とかねてより考えておりました。そんな思いで今回は医療的ケアが必要な子供、成人の社会課題に果敢に取り組んでいる年代のちがう親御さん(40代、50代)お二人と語らう場を企画しました。時間的制約、初めての試みで課題の対談の深め方は十分ではありませんでしたが、今後もこうした機会を障害者当事者や家族の方、不動産に関わる方対象に増やしていけたらと希望しています。
場所づくりに立ちはだかる最初の難関が、資金繰り以前に場所をまず探そうにもなかなか貸してもらえないという現実があります。当事者が個人でも事業者でも同じ苦労を味わいます。今回、不動産やまちづくりを目指す方々にもご参加いただけたのは大きな励みとなりました。建物、土地のオーナーさん、仲立ちを務める不動産代理店の方々には特に知っていただきたい世界です。

障害者のケア事業を、親として取り組むことへの思い

① 「医療的ケア児の地域生活と未来予想図」

デイサービス「Ohana kidsステーション」運営の友岡宏江さん。
世田谷区で重症児、医療的ケア児を対象としたデイサービス・放課後デイ「オハナキッズステーション」を経営し、さらに未就学児童を対象としたデイサービス「Ohana kids ナーサリー」を2021年に開所されています。友岡さんの長女壽音(じゅの)ちゃん(11歳)は13トリソミー染色体異常という重度の障害があります。出産前から生命の存続が危ぶまれたもののNICU(集中治療室)での治療も経験しながら10ヶ月後には退院にこぎつけます。しかし医療的ケアが必要な子育ては一人親としての出発でもあり、つきっきりで少しの休息も難しい中、外出するだけでも吸引器などいくつも医療器具をもっての車椅子移動となり、仕事をしようにも保育園では受け入れられず、、、と困難を極めます。

このとき味わった母子ともに社会や地域から断絶された深い孤立感が友岡さんの奮起するきっかけとなりました。医療的ケアの子を持つ親たちが、仲間がいる安心感、そして預けられる場所があることで世の中・地域との繋がりの中で子育てができる居場所をつくるという強い思いから親同士のグループをつくり、さらに事業を立ち上げます。子どもが子どもらしくいられる場所、社会性を育める出会いが実現する場を親同士のつながりをベースに地域の方々とともに作ってきたのです。医療的な知識、人脈はもちろん必要ですが、それ以上に必要だと自覚したのが、いろいろな人とのつながり。それが友岡さんの「専門性より関係性」「生活は環境で変わる」「一緒に育つつなぐ地域づくり」という言葉に凝縮されていました。「ステーション」という言葉にも人が行き交う場という思いがこめられていました。
オハナキッズステーション https://ohanakids-setagaya.com/
(クラファンのリンク https://readyfor.jp/projects/ohanakids

② 「だれも孤立しない、みんなに居場所と出番を」

医療的ケア対応の通所施設「うさぎのみみ」開所準備中の本間りえさん(2022年2月1日に開所)。
本間さんのご長男の光太郎くん(32歳)は希少難病であるALD(副腎白質ジストロフィー)という病を6歳のとき発症しました。進行が早く命に関わる難病ですが、長女さんから骨髄移植を受け家族一丸となって命の危機を乗り越えてきました。そして国内でも症例が少なく、家族が相談できる相手や居場所が少ないことから2000年には家族会「ALDの未来を考える会」(現在は認定特別非営利活動法人)を立ち上げ、研究支援、家族支援、疾患啓発を軸に20年以上様々な活動をつづけ、現在もピアカウンセリング(同じ背景を持つ人同士が対等な立場で話を聞きあうこと)の相談員を務めておられます。

そして活動地域である西東京地域には、重度障害、医療的ケア対応の社会資源が限られることから親なきあとの将来も見据えて、そうした方を対象とした日中生活介護のデイ(18歳以上)と未就学のお子さんをお預かりする発達相談ができる複合型施設「うさぎのみみ」を開所準備中です。クラウドファンディングにも挑戦し、2日間で目標を達成という快挙を成し遂げました。本間さんが親の会を立ち上げた頃、イメージの参考にしたのは、海外の障害者の親の様々な活動でした。20年以上前でも親の活動にはすでにバリエーションがあり、自由で、楽しい雰囲気にあふれていたのをみて、自分たちももっと自由で、楽しいことをしていいんだと感じたそうです。障害を特別視しすぎない。声高に共生社会をと言わなくても、もともとがいろいろな人がいる共生社会、障害の暗い方ばかりに光をあてず、できること、変えられること、補える道具やサービスをみつけて、自分も含めてみんなが笑顔になれる暮らしをつくっていく、その心いきが本間さんの行動力を支えていると実感しました。

クロストークでは、重度の障害児者、医療的ケア児者の居場所作りの「モノ、金、人、」の工夫をお聞きしました。

●モノ=土地・・・物件オーナーや不動産屋との折衝、住民の理解

最初は仲間づくり、そしてさらには地域での居場所づくりへとプロジェクトをすすめてこられたお二人ですが、事業所開設のための物件探しには大変な苦労をされていました。
*友岡さんは一人で、じゅのちゃんをつれて雪の降る日も時間の許す限り不動産屋をまわり、何十件と物件をみてまわったといいます。建物のオーナーや不動産仲介業者からは「障害者」というだけで拒否されることも多く、オーナーが賛同してもご近所が納得しなかったり、さらに障害者の親がオーナーの立場であってもかえって、ご近所の反応を気にして決断できなかったりもありました。場所選びは慎重に行い、特別支援学校から遠からず、緑を味わえる公園や大学キャンパスがあり世田谷線の駅からも近い商店街の中にある好立地の場所に1年半かかって、ようやく決まりました。コミュニティーづくりを目指し「まちづくり」的な発想をもつ不動産屋でもあるオーナーさんに地元情報で出会えたのです。機会をとらえては重度障害者の施設の社会的意義を丁寧に説明してきたことも功を奏したのでしょう。

*本間さんは西東京市という地域がもともと企業や店舗、マンションが少ないことから物件自体が少なく、見つかっても賃料が高かったりとするなかで、経験値もなく手探りで物件探しを始め、苦労されたとのこと。また住民からの反応を按ずる行政側から課された条件もいろいろありながら、最終的にはいいオーナーさんと出会えたそうです。本間さんも友岡さん同様、こうした施設の社会的意義や必要性について機会をとらえては丁寧に説明してこられました。

現在お二人とも商店街を始め、地域の方との関係づくりは良好に進んでいます。友岡さんは地元のキーパーソン的な人と知り合えたことが大きいと言います。自分でもつながるための下調べをし、近所で何かイベントがあれば、なるべく積極的に子どもたちと参加し、普段の買い物もじゅのちゃんをつれていくようにして、挨拶を交わしたり、と地道な関係づくりを続けておられます。

本間さんは「私たちの活動はこれから、」と前置きされながらも、30年以上住んでこられた地域だけあって、プロジェクトの説明に対して快く興味をもって援助を申し出てくれる方も多く、まわりに支援の輪が自然に巻き起こっているそうです。地縁でつながった人のいる地元で開所できることのメリットやはり大きいですね。

「施設コンフリクト」と言われる近隣住民との軋轢によって事業の開所が阻まれたり、運営自体が難しくなるケースも起こりがちな障害者の居場所づくりですが、豊かな出会いがある日常をつくる、という意味でも今後も地域との関係が焦点になっていくことでしょう。

●金=資金調達の方法

予想をはるかに上回る達成率でクラウドファンディングを短期間に成功させたお二人ですが、資金集めと同時にクラウドファンディングに期待したのは、医療的ケアの人たちの生活を知ってもらう啓発的効果であったといいます。時を得たメディア露出の効果も成功の鍵であったと推測しますが、下地となった親の会での出会いや地道な活動があったからこそ…結果として多くの全国的な支持者と繋がり、自分たちがエンパワーされ、以後の活動にも反映されています。本間さんは、家族会で長年続けてきた、啓発事業や、つながった方への丁寧なご説明、お世話になった方へのお礼や近況報告も大きいと言います。今後もそうした対応が続けられるよう、自分も疲弊せずに、余裕をもって過ごしたいと。NPOである友岡さんの事業では、寄付や助成金という形の収入源確保のために動けるスタッフの余裕や、つながりを開発、維持していく必要も指摘されました。

●人=ケア人材の確保、長く働いてもらうには? 介護技術の向上、継承

オハナキッズでは、幸いにも親御さんのご縁から保育者、看護師、PT(訓練師)といった専門知識をもつ人材が最初から確保できたそうです。現在は法人の魅力度を上げることが、雇用の促進につながると心を配っています。また長く働いてもらう工夫として雇用に際して、自分の夢も語ってもらい、将来その人の夢の実現にも仕事を通じて一役かえればという展望を語られました。本間さんは、家族会の活動の中で、福祉、医療に関わる学生さんに講義されることも多く、そこでは、なるべくALDの家族にとって必要なこと、こんなことがあったら、やってもらえたらうれしいという具体的なお話もするようにしておられるそうです。また福祉、医療のジャンルにとらわれず伝えていくことでご縁が生まれることも多いのでは、とのことでした。

最後にそれぞれの今後の夢、目標をきいたところ友岡さんは障害のある人が就労できるお花やさんが作りたいと。そして子供たちの巣立ち後、障害が重くても、医療的ケアがあっても仕事もできることを予想して、彼らの夢の実現をサポートできるように、自分自身の領域も広げておきたいと希望を語られました。
本間さんは、すでに、事業の長期的シナリオには最終的な親なきあとにも対応できる「住まいづくり」の希望を語られていますが、まだイメージが固まっているわけではないといいつつも、従来型のグループホームではなく、クリニックや看護ステーションを備えるような複合的に対応できる施設にできたら、、、と。
お二人の挑戦はこれからもつづきます。

「家族の未来をつくりたい」たまよんで実現したい思い

重い障害を理由に地域を離れなければいけないのは、当事者にとっても家族にとっても受け入れがたいことです。地域に住み続けたいという思いを支えるのは、ケア事業や居場所だけではなく、不動産として取り組む必要があると考えたのがたまよんの起点です。在宅(保護者との同居)、入所施設、グループホームという現在ある選択肢以外の重症心身障害者(一般には自分自身の判断が難しいとされる)の「ひとり暮らしの在宅介護」に該当します。そこには、親なきあとの持続可能な暮らしをというだけではなく、本人と家族がゆとりのある生活を送るための暮らしの選択肢をつくるという思いがたまよんの事業にこめられています。親なきあとというテーマを前提にしつつも、「重度障害者とその家族の未来をつくる」不動産事業として、この課題を実現させてゆきます。

「この指とまれ!」たまよんのコミュニティへ参加しよう

トークセッション終了後、今後のたまよんのコミュニティ参加のよびかけとなるワークショップを実施しました。

今回のテーマは、『好きなこと・得意分野でつながろう』。

「まちを巡る」「ガーデンづくり」「フード」「ものづくり・手芸」の基本の4つのジャンル中から興味のあるテーマを選び、さらには具体的なやりたいことのアイディアを記入していただく内容。
例として、現地ですでに発足され速水さんも参加している自転車コミュニティ「多摩川ロードライダーズ」や、「ことりっぷ隊」の活動、「着物のリメイク」の紹介もしながら、たまよんのコミュニティに参加してくれる皆さんとどのような暮らしの楽しみをシェアできるか、アイディアを考えました。

▲参加者からのアイディア

参加者からの回答では、ジャンルそれぞれのアイディアと、いくつか組み合わせたアイディアも。とくに「ガーデン」や「フード」を軸とした、地域の暮らし・時節を味わうようなイベント的アイディアがたくさん出ました。
出たアイディアのひとつ「記念植樹」は、たまよんのオープンの時などのセレモニーとして、みなさんとの思い出づくりにもなりますね。
その他には、「友人の紹介」、「メイクアップ」といった提案が。これら人と人の交流がメインになる活動もとてもいいですね。
たまよんに関心を持ってくれるみなさんと、みなさんどうしの交流、そしてこのエリアのもの・ことを一緒に味わい楽しみながら、地域に住み続けることの良さを共有する場にしてゆければと思います。それを実感することができた、素晴らしい時間となりました。

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