壊さずに未来を拓く―秘境の旧保養所、広島県安芸太田町の「龍頭ハウス」再生に懸ける思い

「壊すのは、いつでもできる。でも、壊さずに生かす・活かす道を選ぶには、覚悟がいる」
不動産の業界は、こういったジレンマと日々向かい合っています。「リセットして最適化する」ことは“正攻法”ではあるけれど、使い手がいなくなったら壊せばいいか?スクラップ&ビルドでいいのか?―空き家や空き物件が増え続けている今、そこへの疑問も浮かびます。建物の存在価値や地域における風景・人の営みの連続性といった視点を通すと、「壊さずに活かす」という道のりは楽ではないけれど挑戦しがいのある分野でもあると言えるのかもしれません。
冒頭の言葉は、広島県を拠点とする株式会社グローバルリゾートレジデンスの中道崇志さんが、ふと発したもの。廃墟寸前の空き家や空き物件を、ホテルや民泊施設、日本語学校に再生してきた中道さん。まちに眠る不動産をどのように活用してきたのか、その「はじまり」から現在地をインタビュー。現在進めている旧町営保養所の再生についても、その思いを聞きました。
野球一筋の青年がなぜ不動産業界へ?
幼い頃から白球を追いかけ、大学卒業後は高校の恩師の誘いを受けて母校で教鞭を執りながら野球部監督を務めるという、絵に描いたような野球青年だった中道さん。訪れた転機は教員3年目、「学校の方針との相違を感じて退職してしまったんです」と若さゆえの衝動を振り返ります。安定した道を捨て、足を踏み入れたのは、地元の建設会社でした。物件の「提案型営業」という新しい世界。賃貸マンションの収益シミュレーションや市場調査、そしてコンサルティング営業。猛勉強で宅建の資格も取得し、「建物をつくる」という側面を学ぶ中で、また少し違う業界があることを知ります。それが不動産業でした。
「1億円の土地が、紙一枚、電話一本、3日で売れる。その3%が手に入る。なんてすごい職業!」。高校の同級生が立ち上げた介護資格の会社に専務として参画し、不動産事業を立ち上げて仲介業からスタートしました。建設会社で培った利回りシミュレーションの知識を活かし、「自分でもやってみたい」という衝動に駆られて、個人での不動産投資に乗り出したのです。
第一歩は、築40年のボロボロの戸建て。150万円で購入し、リノベーションに150万円。合計300万円の投資で、「ペット何でも可」という斬新なコンセプトで再生し、すぐに入居者が決まったとか。そして3年後、この物件を460万円で売却。出口まで見据えた一連のプロセスは、「自分の不動産投資の礎になった」と話します。建設会社時代に培った市場調査の「習性」もあって、周辺物件を徹底的に調査し、どこで差別化を図るかを考え抜いて「付加価値」を付けていく。そんな独自の手法を展開しながら事業を拡大させていた中で、次の転機は、建設会社の寮の「再生」依頼でした。
ゴールは満室稼働?収益?いや、「地域の魅力を引き出す拠点に」
その場所は年間200万人が訪れる世界遺産・宮島の対岸という絶好のロケーションの立地。それを活かすには何が良いか?これは地元の「課題感」ともリンクしています。「平和公園や宮島などに国内外から訪れる観光客は、日帰りや短期の滞在に留まっていて、2泊3泊と楽しめるような『受け皿』を作ってもっと多くの人に広島(中国エリア)の魅力を知ってもらいたい」。宮島周辺を中心に、物件を再生してホテルや民泊、ロングステイ用マンションを展開していきました。
「地域の魅力、ひいては広島県全体の魅力を最大限に引き出すための拠点にしたい」。そうして手掛けた物件はこの2年で5施設から18施設。そのスピード感ももちろんですが、やはり特徴は「壊したほうが早い」と言われるような築古物件や自治体の指定管理制度でも公募が集まらなかった保養施設など、「そのまま」では取り壊しや廃止を迎えてしまうような一見“難あり”の物件。「壊さない」「価値を再定義する」。施設運営にも乗り出し、気付けば不動産事業の域を超えていたのです。

写真左は宿泊施設へ初めて再生した宮島近くの物件、右は安芸太田町の「グローバルリゾートNUKUI」
宮島周辺の沿岸部に続いて、「エリア」での物件再生を始めたのが安芸太田町。面積の8割以上を森林が占める県内で一番小さな町で、最初に着手したのが、日本2位の堤高を誇る温井ダムのそのほとりある温泉リゾートでした。廃業から数年、運営に手を挙げて「グローバルリゾートNUKUI」として森と湖に囲まれた、心身を整えるリゾート滞在施設に再生。これには「自然資源を活かして観光や関係人口を拡大させたい」という町の思いにも沿ったものでした。その次は、町営の余暇施設「いこいの村ひろしま」の再生。公募プロポーザル(売却及び貸付)で採択され、この春開業しています。こうした動きの中で、町(町長)から公的遊休不動産について相談されたのが、3つ目の物件、「龍頭ハウス」です。

流と滝、豊かな天然林が美しい県内きっての名峡にある「龍頭ハウス」
ここはもともと、同町に合併する前の筒賀村時代に建てられた公営の保養所。自治体は施設運営のプロではありませんから、経営も厳しく、数年前に廃止して維持管理に困っていた物件でした。「この『龍頭』の場所自体がもう隠された秘境ですし、森林セラピーを観光資源として発信している安芸太田町の動きも併せて、もっと魅力的な場所になるはず。エリア全体を復活させるイメージが前進すると思った」と話します。これまでの2例と異なるのが、ファンドによる資金調達。施設の再生という「事業」だけでなく、地域の魅力を発信する拠点にしていくという“思い”に共感してもらう人を増やすことも、大きな狙い。いわゆる関係人口の拡大という視点もあります。「実は、広島市内から車で1時間かからない距離で、こんなに自然たっぷりのリトリートができる。エリアのポテンシャルをもっと知ってほしいし、観光を絡めた活性で町を元気にするお手伝いが出来たら」
龍頭ハウス再生のプロジェクト詳細
【広島安芸太田町リゾート再生ファンド】
自然豊かな広島県の秘境でリトリート宿泊施設を再生
https://hello-renovation.jp/renovations/25917
※遷移先でリスク含むファンドの詳細をご確認いただけます
地域の再生の“共創”プレイヤーに
事業展開という観点でも、エリアを「面」で再生していくのは理に適っていると話す中道さん。既存施設では技能実習生や外国人のスタッフの採用を積極的に行っていて、彼らのための日本語学校も開設。働く場所もそうですが、食材の調達や運営の効率化からも、いわゆる「ドミナント」的な展開は、地域再生を町と共に担うプレイヤーとして、存在価値を高めるものにもなっていると言います。

写真右は外国人スタッフのビエンさん。人材育成の視点は教育現場での経験も活きている
「経済状況や需要は常に変化するけれど、不動産というハコは変わらない。それを時代に合わせてどのように再生させるか。この問いに向き合い続けることこそが大切」。これには、コロナ禍での苦労もあっての経験の積み上げから出てきた言葉でもあります。「壊して建て替えたらいいという言葉は最後まで使わない」と話す中道さん。
「壊して建てるといった従来の考え方と違った切り口や、融資だけでない資金調達の方法など、知られていないことを発信していくのも自分の役目」。宮島エリアでの実践を次は安芸太田町へ。壊さずに活かす。その覚悟と手間が、町の未来の選択肢を増やしていく。中道さんの挑戦は、地方の風景を変えるだけでなく、関わる人々の意識と希望をも少しずつ耕しています。

自身の不動産投資の経験や事業などを積極的にYouTubeなどで発信する中道さん。「知識やノウハウなどを多くの人に伝えたい」
グローバルリゾートレジデンスウェブサイト
https://global-resort-residence.com/
公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@global_resort