大切なのは、心地よく暮らせる“まち”を住む人自身の手でつくること エンジョイワークス

鎌倉の由比ケ浜通りには、魚屋、板金屋、仕立屋などの古い店舗を、カフェやシェアオフィス、ゲストハウスなどに生まれ変わらせた個性的な建物が点在する。これらのプロデュースを手がけているのが、エンジョイワークスだ。建築やリノベーションを中心に、さまざまな事業を手がけている。

 

仕立て屋さんを改装したエンジョイワークスのオフィス

カフェ『HOUSE YUIGAHAMA』のオフィススペース

板金屋さんを改装したエンジョイワークスのシェアオフィス。メインのオフィスからは徒歩1分ほど

そのエンジョイワークスが2017年春に、革新的なウェブサイト「ハロー! RENOVATION(ハローリノベーション)」をローンチする。各地で問題となっている空き家・遊休不動産を優れたアイデアで利活用しているリノベーション事例を紹介し、身近な空き家・遊休不動産に対する一人ひとりの意識変革を促し、さらには実際にプロジェクトとしても実現していくことが狙いだという。そこでリノベーションへの思いや、サイトをたちあげた目的などについて、エンジョイワークス代表の福田和則さんに話を聞いた。

 

【インタビュー後編】建物だけではなく、人の“つながり”を変えるリノベーション・メディア

 

■住まいづくりを“民主化”すれば、暮らしはもっと楽しくなる

エンジョイワークス社長 福田和則さん

福田 和則(ふくだ かずのり)
1974年兵庫県生まれ。外資系金融機関勤務を経て、2007年エンジョイワークスを設立。
行政や事業者任せにしない「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイル実現を
テーマに不動産及び建築分野において事業展開を行う。
また、空き家・遊休不動産の再生・利活用プラットフォームであるユーザー参加型Webサービス
「ハロー!Renovation」をリリースし、「まち」「ひと」「お金」の新たな関係性構築に取り組む。

 

——エンジョイワークスは、カフェやゲストハウスなど、さまざまな事業をプロデュースしていますね。建築分野に関しては、リノベーションだけでなく新築も手掛けていますし、加えて不動産業も営んでいます。こういった広い範囲のお仕事をしている根幹にはどんな想いがあるのでしょうか。

 

福田和則さん(以下、福田):すごく手を広げているように思われるのですが、僕たちのなかでは全ての仕事がひとつの目的でつながっています。それは「居心地のよいコミュニティが息づく、まちをつくりたい」ということ。今の時代に行政やデベロッパーの資本ありきでまちをつくるのは、そぐわないと思うんです。そうではなく、住んでいる人が、ボトムアップでまちをつくるべきだと。僕らはそれを“住の民主化”と呼んでいます。つまり僕らが手掛けているさまざまな仕事は、全て“住の民主化”に向かっているんです。

 

「Hostel YUIGAHAMA + SOBA BAR(ホステル由比ケ浜+蕎麦バー)」は、由比ガ浜通りにある元人力車の車庫をリノベーションしたホステル。地域の人も利用できる山形そばと日本酒のバーも併設している

世界各地で手に入れた小物や切符、絵本などを逗子在住の画家が個室の各ベッドのヘッドボードにコラージュ

 

——それぞれきちんと意味があって、行われているプロジェクトなのですね。

福田:たとえば『HOUSE YUIGAHAMA(ハウスユイガハマ)』はカフェですが、ドアノブやトイレにも値段がついています。まずは値段を知る事から始めましょうという、メッセージなんです。意外と、トイレ一個いくらか知らない人はたくさんいますから。

 

——私も知りませんでした!

 

福田:僕は住まいに関して、まだまだ住み手は圧倒的な経験不足だと思っているんです。衣食に関しては、何度も消費者が経験できるので、体験も知識も増えて、自分なりの選択や批評もできるようになる。ところが住まいの分野に関しては、なかなか何度も経験ができず、情報不足になってしまいがちです。

 

——体験を補う意図があるんですね。

 

福田:そうです。ほかにも、僕らがプロデュースする「THE SKELETON HOUSE*1(スケルトンハウス)」という新築のタイプでは、住む人自身で「家づくりノート」やときには建築模型までつくってもらいます。それも、家を建てることを深く体験して“ジブンゴト”化してもらう仕組みなのです。YADOKARIとコラボレーションした「THE SKELETON HUT(スケルトンハット)」という小屋も家を“ジブンゴト”にする実験的な取り組みです。「THE SKELETON HUT」は、個々人が住まいを考えていった場合に、選択肢の中に、「いわゆる“家”のサイズでないものがあっても良いよね」ということを示すためのもの。「THE SKELETON HOUSE」で新築の家を我々と一緒につくりあげるよりも、さらにジブンゴト化を進めて「自分の手でつくる」ことに取り組める可能性を示すために小屋を提案したのです(セルフビルドできるのはSサイズのみ)。

 

エンジョイワークスが手がける「THE SKELETON HOUSE(スケルトンハウス)」は、
シンプルで普遍的な箱(スケルトン)と、住む人が自ら考える内装(インフィル)からなる家づくりの新提案

内装(インフィル)は間取りも設備も仕上げも、全て自分の好きなようにアレンジできる。
それは、主体的に自分らしい暮らしを思い描いて欲しいという願いの現れだ

「家づくりをミニチュアで体験する」ことを目的とした。YADOKARIとコラボレーションした「THE SKELETON HUT 」。
小屋サイズで家の一部の機能を、アプリのように切り出して楽しめる。

 

THE SKELETON HUT

 

* * *

衣食に対して、圧倒的に経験値を積む機会がないのが住。しかしひとつの服を着ている時間よりも、一度の食事の時間よりも、圧倒的に長い時間つきあうのが住まいでもある。

確かに家を何個も建てることは難しい。でも、普段から住まいや住環境のことを、楽しみながら考えることをできれば、きっと自分らしい住まいをつくりあげることができるのだろう。

 

■家と職場の往復だけで終わらない人生に、必要な“まち”とは?
——ところで、大資本によるまちづくりが今の時代にフィットしなくなったのはなぜだと思いますか。

 

福田:昔は基準が単純だったのだと思います。住まいの価値を決めるのに、駅から何分で、そこから渋谷にどう出られるかとか、スーパーがあるか、公園があるかというような、外側の情報だけが重要だった。その背景には、多くの人が家と職場の往復が人生の中心だった時代があると思います。だから、職場にどう行くか、帰宅したらいかに効率的に生活が賄えるかということが最大の基準だった。ところが、今は消費者側のライフスタイルが多様化しています。働き方も変わってきているので、それにともなって暮らし方にも変化が生まれているのでしょうね。

 

——画一化されたまちではなく、自分らしいまちに暮らしたいということですね。ならば、自分たちの手で暮らしをつくった方がよいと……。

 

福田:そうやって“ジブンゴト”としてまちづくりに参加している住人が多い地域は、結果的にまちも面白くなるのだと思います。こういった住み手によって場を新たにつくりあげる行為を、僕たちエンジョイワークスでは広い意味での“リノベーション”と呼んでいます。

***

エンジョイワークスが定義する“リノベーション”は、単に古い建物を改装することではない。その場所を活かしながらアップデートする行為そのものを“リノベーション”と呼ぶ。

後編では、“リノベーション”に強い思いを持つエンジョイワークスが、新たに立ち上げたウェブサイト「ハロー! RENOVATION」について、お話をうかがっていく。

 

【インタビュー後編】建物だけではなく、人の“つながり”を変えるリノベーション・メディア

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