『海の京都』日本唯一の舟屋の里を守る

丹後半島の先端に位置する人口約2,100人(2017年3月現在)のまち、京都府伊根町。
 古くから漁師町として栄え、特に伊根特産の『伊根鰤(ぶり)』はその品質も高く評価され、富山県の氷見、長崎県の五島列島と並び、日本における鰤の三大漁場と称される。
 独特の地形によって形成された伊根湾を囲むように約230軒の『舟屋』が群立する景観は、『伊根浦舟屋群』として国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、漁師町の文化が育んできた貴重な資産を後世に残す活動も行われている。

丹後半島の先端部に位置する京都府伊根町。

日本海に面した丹後半島において、内陸側に湾を形成する独特の地形と、「亀島」と呼ばれる島が外海からの侵入を遮断することで、湾そのものが生簀(いけす)のように守られることにより、独自の漁師町としての文化が創り上げられた。

舟屋文化を創り上げた独特の地形

伊根湾の水深は深く、クジラやイルカが湾内に入り込むことも珍しくない。湾に張り付くように群立する家々の背後には山が迫り、山と海の相関関係によって人々の暮らしが支えられてきた。

舟屋の背後には山々が迫る

『海の京都』と称され、世界中から観光客を集める京都市街地からは約100kmの距離があるが、『海の祇園祭』と称される『伊根祭』をはじめ、京都を彷彿とさせる文化も数多く残されている。

『海の祇園祭』と称される伊根祭

もともと舟屋は、漁師たちの『漁具』を保管する場所であり、多くの家が「母屋」「舟屋」「蔵」の三つを使い分けて生活が営まれてきた。
いつからか、舟屋にも人々が住み着くようになり、いわゆる『艇庫付き住宅』として機能し始め、海との密接な関係が保たれてきた。
台風のような突発的な自然現象以外では、伊根湾の水面は常に穏やかで波も立たない。
ゆえに、江戸時代以来、数百年に渡ってこの独自の舟屋文化と景観が継承されてきた。

 

人々の暮らしに直結する舟屋

豊富な漁獲高を誇った伊根鰤(ぶり)の恩恵を受け、伊根の人々暮らしは比較的豊かに営まれ、『鰤御殿』と呼ばれる邸宅が町内にも存在した。
しかしながら、時は経ち、『漁師』という職業も敬遠されがちになって後継者不足が顕著となり、少子高齢化も重なって、漁師町の活気は徐々に失われつつあった。

暮らしに根付く伊根浦漁協

 

「このままでは、町の存続も危うい」
平成の大合併に代表される『合理化』の波が押し寄せ、伊根の人々の暮らしも変化を迫られていった。
伊根町では、日本唯一の『舟屋文化』を守り、独自の手法で人々の暮らしを維持することを選択。
『伊根浦舟屋群』を、国の重要伝統的建造物群保存地区としてその希少性を意識付け、さらに「日本で最も美しい村」連合に加盟し、町民の意識高揚と外部への発信力を高めることで、生き残りの手段を模索し続けてきた。

夕暮れの伊根浦舟屋群

 

インバウンド需要の高まりも相まって、伊根町には今も多くの観光客が訪れる。しかしながら、地形的なハンディもあり、多くの観光客を一度に受け入れるキャパシティは、伊根町にはない。

 

『無理をせず、伊根町に相応しいおもてなしを。』
生活の営みとして存在してきた舟屋をリノベーションし、1日1組限定の『舟屋の宿』として開業する後継者も増え始め、現在では約15軒近くの宿が存在する。

舟屋の宿『鍵屋』

 

その中のひとり、舟屋の宿『鍵屋』を経営する鍵賢吾さんは、結婚後、茨城で飲食店を経営したのち伊根に戻ってきたUターン経営者だ。
生まれ育った伊根町への想いは人一倍強く、新たに地域の仲間と『株式会社Sabai(タイ語で「心地よい」などの意味)』を立ち上げ、伊根町の未来を自分たちの手で創り上げていくことを選択した。

オーナー鍵賢吾さん(右)

 

2017年4月、荒れ地となっていた港の一角に小さな舟屋ストリートを創り、観光客を迎え入れ、おもてなしをする交流施設『舟屋日和』がオープン。株式会社Sabaiが運営を行う。

遊休地を舟屋仕様の交流施設としてリノベーション

 

「伊根町での暮らしを表現し、訪れる方々に心地よく過ごしてもらえる場所にしたい。そしてSabaiが音頭取りになって、地域の人たちを巻き込みながら、伊根町の暮らしを支えていきたい。」
この『舟屋日和』を起点として、鍵さんはすでにその先を見据えている。

遊休地を舟屋仕様の交流施設としてリノベーション

 

独自の地形が育んできた伊根の暮らしと文化を、後世にも継承する。

舟屋の朝

 

日本人の琴線に触れるメッセージを、伊根町はこれからも発信し続ける。

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