スペースマーケットCEO重松大輔さんに聞く、シェアと個人とお金の話

「先の見える未来が嫌だ」とNTT東日本を飛び出し、参画した友人のベンチャー企業を東証マザーズ上場まで押し上げた後、重松大輔(しげまつだいすけ)さんが2014年に自ら立ち上げたのは、眠れるスペースを誰でも簡単に貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」。ベーシックなイベントスペースはもちろんのこと、お寺や球場、無人島といったユニークな場所までもワンストップで予約できるこのサービス、今や国内外から寄せられる登録スペース数は7000件を超えた(2017年8月現在)。そんな株式会社スペースマーケットのCEOを務める傍ら、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の代表理事でもある重松さんに、「シェア」と「個人」と「お金」をめぐるお話を伺った。

重松大輔(しげまつだいすけ)

株式会社スペースマーケット代表取締役/CEO。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事。1976年千葉県生まれ。2000年にNTT東日本入社し、主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。球場から、お寺、結婚式場、古民家、遊園地、無人島等のユニークなスペースを貸し借りできるスペースレンタルマッチングプラットフォーム「スペースマーケット 」を運営。

なぜたくさんのスペースが集まるのか?

ー 現在もう8000件に迫る数のスペースが「スペースマーケット」に登録されていますが、これらのスペースはどのように集めていらっしゃるのですか?

重松大輔さん(以下、重松):やはりレビューが重要なんです。ですからレビューを書きたくなる仕掛けをやっています。スペースのホスト(貸し手)にメールのタイミングや書き方をフォローしたり。ホストとゲスト(借り手)がお互いにレビューをし合うことで信頼度がアップしていくんです。今、うちの利用者の約4割の方がレビューを書いてくださっているのですが、書く人のモチベーションが大事。スペースマーケットはCtoCのやり取りが中心ですから、レビューの内容を見ていると、ゲストが素直に感謝の気持ちをホストに伝えているようなレビューが多いです。でもそういう言葉ってやっぱり書いてもらうと嬉しいですよね。このようにして、ホストもゲストも素人の状態からお互いに経験値を上げていって、コミュニケーションを深めていき、それが「信頼」になっていく。

スペースマーケットのスタート時、スペースは100件でした。サービスをリリースした際に、お客さんが来ても品物がなければすぐ帰っちゃうので100件は用意したいと。これはもう僕が足で集めましたね。前職のツテのあった結婚式場や知り合いなど、ドブ板営業ってやつです。今は集まってくるスペースの8割~9割はインバウンドになりました。最近は僕の友人たちもやり始めているみたいです(笑)

 

ここに暮らしてきた人の想いや温もりがある空間は、過ごす時間を味わい深いものに。

 

ー スペースマーケットを見ていると、古民家など古い建物も結構ありますよね。今後はどのようなスペースが増えていくことを想定していらっしゃいますか?

重松:稼働するのは「想いのあるスペース」「温かみのあるスペース」です。Airbnbも日本は最初、マンションのワンルームみたいな所から始まりましたが、やはり稼働するのは「ストーリーのある場所」なんですよね。やり取りの場がBtoBやBtoCではなく、CtoCあるいはSmall BtoCですから。今あるものをリノベーションしたりして賢く使う。人が喜んでくれて稼働すればリノベーション費もペイできる。法人メインだと温度が低く数字も上がりにくい傾向です。法人で稼働するのは担当者の熱量が高い場合。CtoCの方がその辺の反応がダイレクトですよね。

海外では当たり前になりつつある送迎サービス「Uber」。日本では東京の一部でのみ利用可。
ドライバーにも乗客にも双方にメリットがある、シェアリングエコノミーを代表するサービスだ。

個人に力が宿る時代

ー スペースとそこを使いたい人のマッチング、これはいわゆる「シェアリングエコノミー」の領域だと思いますが、このような仕組みが増えていくことで、世の中に対してどのようなインパクト、あるいは新しい価値がもたらされると考えていらっしゃいますか?

重松:例えば今、UBER(ウーバー)という配車サービスが世界で稼働していますが、バリ島にもUBERがあるんですね。昔はバリ島のタクシーと言えば、旅行者の足元を見てボッてくる、みたいなイメージがありましたが、UBERのドライバーはすごく親切なんですよ。もちろん料金も適正か少し安いぐらい。これからシェアリングエコノミーの市場が非常に成長すると予測されている中国にもUBERと同じようなサービスがあって、そのドライバーに話を聞くと「悪いことなんかできない。サービスのクオリティを上げないと商売ができない」と言うんです。UBERがこれだけ広がっているのも、ユーザー体験が違うからなんですよね。

つまり、これからは個人がどんどん評価されていく時代。正しい個人が評価される・増える社会になっていくと思います。「個人に力が宿る世界」と言ってもいいかな。インターネットのいちばん良い所ですね。個人の、社会的な新しい指標が可視化されるという。


スペースマーケットの社員によるDIYでリノベーションしたスペースもある。

スペースプロデュースのニーズ

ー 空き家・遊休不動産を再生するWebサービス「ハロー!RENOVATION」では、空き家で何かをやりたいと志すプロジェクトリーダーへのサポートを行っていくことが特徴なんですが、世の中の何かやりたい人への取り組みとして、スペースマーケットではどんなコンテンツやサービスの強化を考えていらっしゃいますか?

重松:自分たちでもスペースをプロデュースすることを始めています。と言うか、うちの社員たちがDIYしたくて始めたんですけどね(笑)ホストによっては、物件はあるけど手を入れるのはお任せしたいというニーズもあるんです。なので、今後は不動産会社さんなどと組んでスペースをプロデュースするということもやっていきたいです。全てうちで抱え込むんじゃなくて、その辺はその道の方と一緒にやっていきたい。ハロー!RENOVATION、空き家再生というのも、うちと見ている方向は同じですから協業の可能性は十分にあると思います。

地方物件も増えてきているんですよね、結局最後はSEOですから。リアルな場所が遠くても、検索上で引っかかれば。例えば九州のとある喫茶店のスペースを営業時間外にレンタルしているケース。レビューやコメントを見ると、やはり地元の人が多いですが、東京の人にも十分に利用できるチャンスがあります。出張先で会議をしたい時、普通の貸会議室を借りるよりこういうユニークなスペースの方が楽しいじゃないですか。事前に予約をしておけば問題ないですし。

地方ということでいくと、古民家はどこにあっても稼働するので増やしていきたいですね。

 

稼働率の高い、良いスペースのポイントは「想いがある」「デザイン性がある」「どう活用されていくか」。

 

「良いスペース」とは何か?

ー 古民家、というお話がありましたが、今、全国で1000万件以上あると言われる空き家や遊休不動産が今後良いスペースになっていくために必要なことは何でしょうか?

重松:僕はスペースマーケットの経験から、「良いスペース」とは「想いがある」「デザイン性がある」「どう活用されていくか」の3つがポイントだと思います。スペースが良い活用をされていくと、コミュニティができていくんですよ。

それから、スペースマーケットは機会を引き出す良いクッションになっていると思いますね。マンションの隣の人にいきなり「部屋貸して」とは言いづらいじゃないですか(笑)

また、こんな例もあります。お寺をスペースとして貸しているケースで、そこのホストは意義のあることにチャレンジしようとしている若い人なんかにはタダ同然で貸すんです。一方、企業に貸すときはきちんと料金をもらう。ホスト側が内容によって分けているんですね。そういった個人の意志や想いが反映できることも重要ではないかと思います。


シニアのホストが提供しているスペース。サイトへの登録などもご自身でこなす。
スペースを貸し出すことが日々の楽しみにつながっている。

これからのお金のあり方

ー 「ハロー!RENOVATION」ではこの秋に空き家再生のためのクラウドファンディング機能が加わり、将来的には投資型ファンドも計画しています。シェアリングエコノミーにおいて、あるいは目指す未来に対して、お金のあり方・使い方はどう変わっていくと考えますか?

重松:日本はタンス預金なんですよね。しかし、お金はぐるぐる回してこそ真価を発揮すると思います。不動産も同じです。体に血液を回すように、循環させることが元気を生む。逆に循環させないと硬直してしまう。宮崎県の日南市というまちが今、すごく活気づいているんですよ。外部から移住した人がシャッター商店街を盛り上げようと、歴史ある喫茶店をリノベーションして新しいカフェにし、そこを皮切りに多世代のいろんな人の交流が生まれて、まち全体に良い影響を与えています。

スペースマーケットのホストになる人は30代から40代の方がいちばん多いです。20代だとまだ自分のスペースを持てない。稀に60代以上のおばあちゃんもいますけどね、稼ぐ楽しみというのはボケ防止には最適ですし(笑)でも本当はその世代の人たちにいちばん火を点けたい。できないなら若い人たちに任せてお金やスペースを抱え込むのをやめましょう、というふうにしていきたい。そうやって引っ張って回さないと、と思います。


会社に出勤している時間帯に自宅を貸し出しているホストも。

個人の信頼に対するセンサーレベルが上がっている

ー 少し実際的な質問になりますが、法律面への対応スタンスはどのように考えていらっしゃいますか?具体的には、利用規約、ホスト規約、ゲスト規約でカバーされていると思いますが、規約違反、つまり悪用のチェックは難しい問題ではないでしょうか?

重松:ホストサイドで言えば、料金の中抜きをする、とか誠意ある対応をしないといったこと。ゲストサイドで言えば、時間になっても帰らないとか、酔っ払って何か壊しちゃうとか、そういうことですよね。スペースマーケットは創業時から比べると300%くらい成長しているんですが、トラブルの発生率は逆に減っているんですよ。ホスト側もゲスト側も互いに経験を重ねたことで、個人の信頼に対するセンサーのレベルが上がっているんだと思います。とは言え、そうでない場合は保険でカバーしますね。

法改正でこれから民泊がもっと本格化していくと、もっと本物のシェアリングエコノミーが始まっていくと思います。チャレンジする人も増えていくんではないでしょうか。ますます個人の信頼が重要になっていくと思います。


古い社会や「これ間違ってるよな」ということを変えていくのが自分にとっての「リノベーション」と重松さん。

リノベーションは「レボリューション」

ー 「ハロー!RENOVATION」ではリノベーションという言葉の意味を、単なる建物の修繕・再生という意味を超えて、固定観念や既成の価値を新しいものへと変革することを「リノベーション」と呼んでいます。重松さんにとって「リノベーション」とは?

重松:リノベーションとは「レボリューション」ですね。起業自体、ベンチャーやスタートアップ企業はみんなそうなんじゃないでしょうか。古い社会や「これ間違ってるよな」ということ、例えば趣のある古民家を潰して駐車場にするとか、地域で何年にもわたって愛されてきたお祭りを教育委員会が取り潰すとか、おかしいなと思うことを変えていくことが「リノベーション」だと思います。

人生、生きているとリスクしかないんですよ(笑)やらない方向ばかりしていると世の中つまらない。変な平等思想に縛られないで、もっと稼働させていかないと。

何か新しいことを始めようとする時には、そうさせまいとする力も働きます。そこをどうかわしながらスルスルと抜けていくか。まともにぶつかると疲弊しますから。そしていかに既成事実化するかが大事。みんな、やる前からいろいろ言い過ぎなんです。まずはやってみる。小さな勝利を積み重ねていくことです。

ー ラグビーをされていた重松さんらしい回答ですね。そんな重松さんに最後に伺いたいのですが、良いチームをつくる秘訣、チームワークで大事なことを教えてください。

重松:どうやったらチームで勝てるか、と常に発想すること。大きなことを成し遂げようと思ったら、自分だけでは限界があります。どうやって自分の夢に乗ってもらうか。どうやってみんなを本気にさせられるか。たとえ社員であっても、彼らは仕事だけをしているわけではありません。彼らにも人生があり、その構成要素はたくさんある。その中の一つがうちの仕事というだけです。だから、このビジネスにおいてはどこでその人と繋がるのかが大事。それがはっきりしていればお互いに大丈夫。あとは優秀な人同士が気持ちのいいグルーブを作り出せるようにしてあげれば、自然と良いものが生まれてきます。

ー 個人の信頼が可視化され、お金が血液のように循環する社会へ。重松さんのスペースマーケットが加速させるシェアリングエコノミーが当たり前の世界は、全国の空き家・遊休不動産という眠れるリソースを、みんなの力を集めてより良い社会をつくるために活用・最適化していくハロー!RENOVATIONが目指すものと同じ世界。同じ方向を見据えながら互いの得意を持ち寄り、協業、そして共創できたら、多くの空き家が新しい価値を持って生まれ変わり、「スペース」を求める世界中の人に役立つものとして流通していくに違いありません。そうなる未来を一緒に実現したい、そう思えた重松さんへのインタビューでした。

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スペースマーケット

https://spacemarket.com/

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