ハロー! RENOVATION

なぜシェアアトリエ? アートが変化するいま、コミュニケーションを大切にする二人のアーティストに聞いた

ハロリノ編集部

シェアアトリエで再生する賃貸マンションプロジェクトでは、現代美術史家の沓名美和さんと美術家の奥中章人さんをお迎えしてアートと不動産の可能性を語り合うオンライントークライブを開催。アートの世界で幅広く活躍されているお二人に、さまざまな人たちと交わりながら制作活動を行うことで広がるアートの魅力やシェアアトリエの可能性について、事例や取り組みに触れながらお話いただきました。

目次
1.さまざまに使い、ときに地域に開くシェアアトリエ
2. 社会問題をクリエイティブの力で解決したい
3. つくらないことから、新しいものを考える
4. “人との交差”は美術家にとっても大事なプロセス
5. 制作を公開することで、互いの心が近くなる
写真右から時計回りで、現代美術史家の沓名美和さん、美術家の奥中章人さん、ハロリノプロデューサーの松島

1. さまざまに使い、ときに地域に開くシェアアトリエ

ハロリノ 松島(以下、松島):神奈川県逗子市にある「桜山シェアアトリエ」は、ハロリノが数年前に開催したイベント「そんな物件ねーよ!をつくる会議」から誕生しました。みんなでアイデアを持ち寄ってつくったシェアアトリエは、さまざまな用途で使われ、ときには地域に開いてイベントも行っています。アートという言葉が入ると自分には関係のない場所と感じる方も多いと思いますが、高稼働率が続いていることからも各々の使い方ができる場所として、みんなのサードプレイス、フォースプレイスになってきているのかなと感じています。

「桜山シェアアトリエ」の利用者には、ジュエリーデザイナーや彫金作家、木工職人といったアートらしい人もいれば、古着屋の倉庫にしつつアイロンがけ作業に使ったり、ヨットのセールを再利用したバッグをつくったり、自転車好きな人が整備場として使ったりなど一見アートらしくない使い方をされている方も。

桜山シェアアトリエの誕生ストーリー
物件オーナー、投資家、借り手が一緒に廃工場をリノベ。桜山シェアアトリエ

今回のイベントでは「なぜシェアアトリエか」をテーマに、シェアアトリエがアーティストから見るとどういった場に見えるのか、作品づくりだけでなくコミュニケーションを大事にアートについて考えられているお二人の視点からお話いただきます。よろしくお願いします。

沓名 美和さん(以下、沓名):いま中国の二つの大学で、文化外交の専門家と、現代美術を教えながら、日本の多摩美術大学でも客員教員をしております沓名と申します。また、アーティストさんの作品を選び、展示し、展覧会自体に物語をつくっていく、キュレーションという仕事もしています。じつはこのイベントの打ち合わせで急遽、追加ゲストとして友人で美術家の奥中さんにも参加いただきました。

奥中 章人さん(以下、奥中):美術家の奥中です。普段は京都におりますが、いまはまさに静岡にあるシェアアトリエに滞在しながら、一見すると子どものための遊具のような、ですが大人が体感鑑賞するためにつくっているアート作品を市民のみなさんとつくっています。よろしくお願いします。

松島:よろしくお願いします。それでは沓名さんから日ごろの活動についてお聞かせいただけますか。

 

2. 社会問題をクリエイティブの力で解決したい

沓名:私は学生時代からただアートをつくるのではなく、社会的な問題をクリエイティブの力で解決する取り組みをしたくてアートプロジェクトに取り組んできました。芸術を使って社会を良くしたり、環境を変えて暮らしやすい町をつくったりですね。最初のプロジェクトは2013年にカンボジアで立ち上げた薬莢を再生する「リバースアジア」です。

私が最初に行った2000年代のカンボジアでは田舎の小さな村に薬莢がふつうに落ちていたりしました。ポル・ポト政権による大虐殺が1970年代に起こったのですが、私はその薬莢を拾った瞬間に歴史の重みを感じて……。それで薬莢という、残ってしまった負の遺産を次の世代に美しいものとして届けることができないかと、真鍮製の薬莢を再生してジュエリーをつくる活動を始めました。

いまはカンボジアの工房で現地の人が内製し、沓名さんは販売面でサポートしている「REBIRTH ASIA(リバースアジア)」プロジェクト。ジュエリーは表参道にあるクレヨンハウスのほかオンラインストアでも取り扱っています
instagram @rebirth.studio

このプロジェクトは、「薬莢」「ゴミ」「職業」「伝統」という4つの再生を考えています。まずは地域に落ちている薬莢やごみの再生ですね。職業というのは、職業の選択肢を広げるということ。ジュエリーを一緒につくってもらっている子どもたちやスタッフと会話をしていて、「カンボジアは職業の選択がすごく限られている」と感じました。

日本の子どもたちのように、子どもたちがミュージシャンやアーティストと、デザイナーといった夢のある職業を語らないことはとても悲しいと感じて、働き方も再生できないかなと思っています。こうした再生に取り組むことで、アンコールワットというクメール王朝があった時代にたくさん作られていた「クメールシルバー」という食器や装飾品などの伝統工芸の再生にもつなげていけたらと思っています。

 

3. つくらないことから、新しいものを考える

沓名:アートプロジェクトをしながら、中国の大学で現代美術の博士号も取ることができ、大学で教えることも始まりました。そのころの中国はものをたくさん生産していて、ものにあふれていたんです。そこで私の授業では、ものをつくらないことを一度考えてみようと、「つくることにブレーキをかけて、つくらぬことに引き込むこと(もの派の概念)」から新しいものを考えていくことを始めることにしました。

ここでは学生の作品を二つ紹介します。一つ目は、コロナ禍でごみとして増え続ける医療従事者の防護服をブロックにして壁に積み上げてつくったドアの作品です。医療従事者として働く学生の両親が毎日捨てる防護服で何か作れないかと考えました。

もう一人の作品は、化粧をとるクレンジングの紙で作ったお花です。「いつも私たち女性は化粧して美しく見えさせているけど、美しさとは何か」をテーマに作品を作っています。

このように、現代美術というと昔はコンセプチュアルで難しい印象がありましたが、いまは美術館などで見るような「ハイアート」から、誰でも参加できる「多様性のアート」「コミュニティーアート」「体験するアート」もありますが、それだけでなく暮らしに寄り添いながら生活と密接につながるようなアートも出てきています。シェアアトリエもそういったことから可能性がありますよね。(*2)

 

4. “人との交差”は美術家にとって大事なプロセス

「INTER-WORLD/SPHERE: The three bodies」 2021(北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs)。奥中章人さんの代表作である巨大な虹色の風船状の作品。今年3月に兵庫県尼崎市で開催されたアートトリエンナーレ「あまがさきアート・ストロール~Produced By 六甲ミーツ・アート芸術散歩~」の一環で尼崎市立歴史博物館の中庭にも展示しました。その様子を伝える動画はInstagram @akihito_okunaka にて

松島:いまの沓名さんのお話で、アートがいろいろなおもしろさを表現できるものとして身近になってきて、シェアアトリエの変化についても期待されていましたが、奥中さんは今日、シェアアトリエにいらっしゃるとのこと。ふだんからよく使われるのでしょうか?

奥中:そうですね、僕は作品をつくっている現場をオープンアトリエとして公開して、いろいろな人が交差できるようにと考えています。というのも、20代のころにいろいろな地域の芸術祭でその場にある材料を使っていろいろな方々に支援いただきながら作品をつくっていて。作品をつくる場所を僕一人だけのスペースではなく、いろいろな人たちが関わるようにした方が、作品がどんどんおもしろくなっていったんです。

もちろんアーティスト同士だけでもおもしろいのですが、そうじゃない方々もみなさん何かの商売をしていらっしゃったり、何かに詳しい方だったりして、それぞれ技術を持っていらっしゃるんですよ。そんな方たちが集まると、僕が技術的に困ったときに「こんな材料があるよ」「こんな道具があるよ」「こんな方法があるよ」と知恵をくださって、僕の作品がどんどんアップグレードしていく。作品に参加されたみなさんも成し遂げる力を作品に感じてくださったのか、その後もずっとサポートしてくれたり、僕の作品をお店の看板にしてくださったりとおもしろい展開になっていくんです。

それはまちで生きている人たちが持っているものを交換し合うようだと感じて、「あ、これは美術館に飾るだけ、ギャラリーに置くだけでなく、いま僕が美術家やアーティストとして歩むなかでとても大事なプロセスなんだ」と思ったんです。

 

5. 制作を公開することで、互いの心が近くなる

そうした出会いを探してアーティスト・イン・レジデンスプログラム(*1)を使って韓国やフランス、中国などの国に行きました。アーティストがその国の文化や最新の技術を学びながら作品をつくるこのプログラムも、いわばシェアアトリエのようなお互いを刺激し合う空間だと思います。全く異なる文化的なコンテキストを持つアーティスト同士が、共同生活の中で作品について語り合うことが自然と起こるんですよね。

すると今まで見えていなかったその国の政治的な事情の裏面や地域の人たちがどんな思いで暮らしているのか、といったことがニュースで見るより体温を感じて理解できるようになるというか。そういうこともそのスペースを公開したからお互いの心が近しいところにあって、互いの文化やどういう歴史を歩んでいたのか触れることができるのも貴重な機会だなと思うようになり、どの場所であっても作品の現場を公開して見学いただいたり、体験いただいたりするようになりました。

松島:グローバルなシェアアトリエのネットワークがあったらすごくおもしろそう。そこに尼崎も入って。

奥中:おもしろいですね。私たちアーティストにはさまざまなポータルサイトがあって。たとえばオランダのアムステルダムに拠点のある世界のアーティスト・イン・レジデンス・ネットワーク「Res Artis」には各地のプログラム情報が毎週のように更新されているんです。だから僕もそういうところで滞在先の国の場所や、活動を後押しする助成金や補助金などの支援システムを探します。

松島:奥中さんのシェアアトリエ論や作品のつくり方など、お話を聞いていてワクワクしました。沓名さん、これまでのお話はいかがですか?

沓名:そうなんです。今回奥中さんをこのイベントに呼びたいなと思ったのはエンジョイワークスさんのコミュニティ型不動産業がさらに新しくなって、コミュニティ型アートに変わってきたというところで結びたいなと(笑)

松島:この話は尽きませんね。沓名さんの平和へのメッセージを伝えるためのアートプロジェクトや多様性に富んだ作品の紹介、そして奥中さんの地域に開くシェアアトリエのあり方などをうかがい、アートってもっと気軽に楽しめるものだと感じました。尼崎マンションプロジェクトもさまざまな使われ方ができる場所にしていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

 

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シェアアトリエで再生する賃貸マンションについて
空室が多くなった築古賃貸マンションの一部をリノベーションし、居住も可能なシェアアトリエに再生。クリエイティブな活動をする人たちが住まいや暮らしをつくるサードプレイスをつくります。

本記事について
8月6日に開催したオンライントークライブ「なぜ今シェアアトリエか。」の一部を再編集しています。トークライブのアーカイブはこちら

沓名 美和 さん

Instagram @miwakutsuna

魯迅美術学院現代美術学科教授/清華大学日本研究所訪問学者/ 多摩美術大学客員教授/REBIRTH ASIA代表/ボアオ文化産業フォーラム日本理事
多摩美術大学在学中に文化人類学等に触発され、東アジアの文化や芸術、民俗学に興味を持ち、卒業後、韓国弘益大学で大学院に進学。その後、中国清華大学にて博士号を取得。現在は清華大学日本研究所にて東アジア文化芸術の専門家として外交行事にも携わる。また、アーティストワークとして2013年から、アートと社会を結ぶ公益的な芸術の再生事業を考え、薬莢を再生しアートにする「リバースアジア」をカンボジアにて創設する。この経験を生かし、魯迅美術学院にて中国の美大で初めてとなる現代美術学科「環境の再生と芸術」の教授となり授業を開講している。

 

奥中 章人 さん

http://world-akihito.com https://aoioa.art

instagram @akihito_okunaka

美術家。1981年京都府生まれ、同地在住。あおいおあ/AO Institute of Arts共同代表。木津川市山城総合文化センター体感アート講座主宰。静岡大学教育学部卒業後、静岡県立美術館ならびに知的障害者の社会福祉施設にて美術遊びの講師を務めたのちに美術家となる。文化財団の助成を受けて、フランス・韓国・中国にて特別研究員として研鑽を積み、体験的な巨大作品やワークショップを開発する美術家として国内外で発表している。

静岡県県分割振興財団「GRANSHIP」で9月22日~10月9日に実施するほか、今夏には関西各地で作品展示や太陽熱気球の子どもたち向けワークを開催

*1  アーティスト・イン・レジデンスプログラム……アーティストが一定期間滞在して作品制作やリサーチ活動を行うこと。http://air-j.info
*2  コミュニティや経験から生まれるアートの事例は、本トークライブのアーカイブで紹介中

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