公的不動産の証券化とは? 活用方法やスキーム、事例を解説

国内の全不動産の約1/4を占める公的不動産は、人口減少する地方都市においてコンパクトシティ推進の流れからも有効活用が重要視されています。遊休不動産の利活用に向けて不動産まちづくりの基本を知るシリーズ、今回は「公的不動産の証券化」について。公的不動産活用の手法やスキームの解説、事例を見ていきましょう。Photo : The Bath & Bed Hayama

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公的不動産とは? 使われなくなった公共施設を有効活用

1.公的不動産を活用するための3つの手法

国土交通省が推計した国内の不動産2,400兆円のうち、国と地方公共団体が所有する不動産は約570兆円(全体の24%)を占めており、地方公共団体はその70%を超える約420兆円を所有しています。しかしながら、厳しい財政状況が指摘される中において自治体が公的不動産を保有し続けることは困難であり、戦略的な管理が求められています。こうした背景から国土交通省では、地方公共団体が所有する不動産を「公的不動産(PRE:Public Real Estate)」と表現し、公共・公益的な目的を踏まえつつ、経済の活性化と財政健全化を念頭に、適切で効率的な管理と運用を推進する「PRE戦略」を進めています。

PRE戦略では、民間事業者との連携による公共施設と民間施設の合築や民間事業者のノウハウを活用した事例が増え、地域住民に魅力的な施設が整備されたり、地方公共団体の財政支出が削減されるなどの効果が見られています。民間事業者が公的不動産を利活用するための具体的な3つの手法を解説していきます。

2. 公的不動産の購入

公的不動産の有効活用に積極的な地方公共団体と民間事業者などをマッチングするため、地方公共団体が開示している公的不動産の関連情報を一元的に提供しています。

募集中の物件情報は、地方公共団体のさまざまな公的不動産情報を一元的に集約「公的不動産(PRE)ポータルサイト」などで入手することができます。同サイトは公的不動産の民間活用の拡大に向けて地方公共団体と民間事業者とのマッチングを支援するために国土交通省が平成28年に運営を開始。低未利用地の売却や貸付け情報、民間提案窓口情報をはじめ、国土交通省や関係府省における公的不動産に関する取組情報を紹介しています。

3. 公的不動産の証券化

不動産の証券化は、不動産の保有のみを目的とする特別目的会社(以下「SPC」(Special Purpose Company)に不動産を移して、そのキャッシュフローを原資に資金調達することであり、投資家はSPCの出資持分を取得することで投資を行います。具体的には、不動産特定共同事業を用いて公的不動産の利活用を推進するなどの目的で使われます。

公的不動産の証券化の基本的な特徴は4つあります。

・投資単位の小口化
不動産の証券化によって投資家が不動産に直接投資するよりも、少額の投資単位で投資ができることをいいます。これによって少額の資金から不動産投資が可能となります。

・流動性の向上
投資家にとっては売買で投資資金を回収する際、不動産に直接投資するより換金が容易に。また、流動性が高くなることで投資対象としての魅力が高まります。

・二重課税の回避
二重課税が発生し、SPCに対する法人税と投資家に対する所得税がかかります。投資家に不利のためパススルー(課税主体とならないSPCを使用)とペイスルー(配当金を損金算入して法人税の課税所得から控除)で回避されます。

・倒産隔離
不動産証券化では、SPCは不動産からのキャッシュフローに基づいて資金調達を行いますが、倒産時には資産価値やキャッシュフローとは無関係な事由で影響を受けるため、これを排除する必要があります。また、SPCの倒産時には倒産法が優先されて投資家に配当ができなくなる可能性があるため、SPCが倒産しない仕組みが必要とされます。

不動産を証券化する場合、不動産の原所有者がSPCに不動産を譲渡し、SPCは投資家から資本を、金融機関から負債を調達する。不動産証券化の基本的な仕組みを図式化すると図表1のとおりです。

出典:「不動産証券化の基本的な仕組み」不動産の証券化に関する基礎知識 P.8

4. 官民連携事業

地方公共団体にとって、財政状況や人口減少、公共施設の老朽化などへの対応と同時に、活気ある地域経済を実現することが急務となっています。PPP(Public Private Partnership)は、行政と民間企業が協力して公共施設の建設、維持管理、運営を行い、財政資金の効率的な利用や行政の効率化を図ることを目的としています。PPPには、指定管理者制度、包括的民間委託、PFI(Private Finance Initiative)など、多様な方式があります。地域の課題に応じて、各地域の実情に合わせた官民連携事業が全国的に検討・実施されています。

国土交通省が公的不動産の活用を土地・空間創出の観点から取りまとめた「公的不動産の有効活用等による官民連携事業事例集」を参考にすると、公共施設の整備における官民連携手法は「公的不動産(PFI)事業」「設計施工一括(デザインビルド。表では「DB」と記載)」「包括委託」「民設公営」「民設民営」「その他」に類型化することができます。

出典:「公的不動産の有効活用等による官民連携事業 事例集 P.6

この事例集には、国土交通省の所管事業を中心に、20の先行事例の基礎情報やノウハウなどがまとめられています(「基本データ」「事業実施の背景・経緯」「施設整備概要」「官民連携の仕組み」「事業実施の流れ」「事業の成果」など)。公的不動産を有効活用した官民連携事業の検討・実施を検討する人はぜひ参考にしてください。

5. 地域の資金循環構築にもつながる事例

公的不動産の活用事例は全国に多数ありますが、ここではその目的に鑑み、不動産証券化手法を活用した事例の中から、小規模不動産特定共同事業1号クラウドファンディングとして募集された空き蔵リノベーション事業を紹介します。

不動産特定共同事業法に基づいたクラウドファンディングで調達した資金を活用し、現在使われていない「空き蔵」を宿泊施設「The Bath & Bed Hayama」に改修。募集事業者であるエンジョイワークスは、神奈川県の葉山・鎌倉・湘南エリアを中心とした設計・不動産事業者で、当時の資本金は1,375万円。 クラウドファンディングによる募集を2018年6月に行い、初日のうちに予定金額600万円の調達を達成しました。

出典:国土交通省「持続可能な地方創生に資する不動産証券化とESG投資」(2022年9月) P.22
*画像をクリックすると大きく表示できます

また、「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」にも当社の2件のプロジェクトが好事例として紹介されています。あわせてご覧ください。
P.23-25 五條楽園エリア再生ファンド事業
P.32-34 旧村上邸再生利活用ファンド事業
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001519666.pdf

エンジョイワークスは、「PPP協定制度」2022年度の個別相談パートナーに選定され、地方公共団体職員および地場企業を対象にPPP/PFIに関する相談を無償で受け付けています。PPP協定制度は、国土交通省とPPP協定を締結した民間事業者が、協定パートナーとして、地方公共団体職員・地場企業向けにセミナーの開催や個別相談、データベースの提供を通じ、PPP/PFIの普及・啓発を行うものです。お気軽にお問い合わせください。パートナー詳細ページはこちら

お問い合わせ

エンジョイワークス 事業企画部
神奈川県鎌倉市由比ガ浜1-3-1-2F
https://enjoyworks.jp/produce
0467-53-8583

〔エンジョイワークスについて〕
エンジョイワークスは不動産探しから建築設計、建築後の建物の運営・管理ノウハウの提供まで、まちづくりに関連する事業を展開。地域の一人ひとりが、自分の家づくりやお隣さん、まちとの関係を「自分ごと」として考え、行動する人を増やしていくことで、「住」の分野を進化させ、自分自身もまわりの人もより豊かに生きられる社会となるよう活動しています。

その活動の柱にあるのが「共創(Co-Creation)」です。企業のミッションに「ライフスタイル(暮らし方、働き方、生き方)について自ら考え、自ら選択することのできる仕掛けを提供し、共創する機会を生み出すことで、持続可能で豊かな社会の実現に貢献します」を掲げ、達成に向けてさまざまな「参加型まちづくり」のツールをワンストップで提供。多様な人々と一緒に、みんなにとって価値あるものをつくり出すため、多様な人々の多様なライフスタイルと事業の実現をサポートしています。

リンク集

国土交通省 公的不動産(PRE)ポータルサイト より
関係府省の取組 公的不動産(PRE)の民間活用をサポートするため、関係府省における公的不動産(PRE)に関する取組情報を紹介。

▼公的不動産関連参考書
国土交通省 土地・建設産業局 不動産市場整備課
公的不動産(PRE)の民間活用の手引き~不動産証券化手法を用いたPRE民間活用のガイドライン~(平成30年4月改訂版)
公的不動産(PRE)の活用事例集(平成27年5月公表)
PRE戦略を実践するための手引書(2012年3月改訂版)

国土交通省総合政策局官民連携政策課
公的不動産の有効活用等による官民連携事業事例集(平成26年7月公表)

国土交通省都市局都市計画課
まちづくりのための公的不動産(PRE)有効活用ガイドライン(平成26年4月公表)

国土交通省都市局まちづくり推進課
地域における民間都市開発事業の促進のための金融連携基盤の構築に向けたガイドライン(平成29年3月公表)

▼PRE関連情報
総務省自治財政局財務調査課
地方公会計の整備
公共施設総合管理計画

文部科学省大臣官房文教施設企画部施設助成課
未来につなごう みんなの廃校プロジェクト~廃校施設の有効活用~

国土交通省都市局まちづくり推進課都市開発金融支援室【民間都市開発推進機構】
民間都市開発推進機構による公的不動産(PRE)の活用支援

日本PFI・PPP協会

▼PREに関する会議体
公的不動産活用促進に関する関係省庁連絡会議
平成27年度 不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)の活用のあり方に関する検討会
平成26年度 不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)の活用のあり方に関する検討会

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