あなたの社員もサーフィンに行かせよう②
鎌倉の海まで歩いて5分の所にある古いテナントビルを、どう活用しようかというプロジェクト。当初オーナーは建て替えも視野に入れていたが、現在のテナントの負担も考えリノベーションへと舵を切った。江ノ電「由比ヶ浜」駅からも徒歩20秒という好立地を生かし、ここをどんな「場」へと変えていこうか? 単純な建物の改修という意味にとどまらず、このビルを変えることは「○○○」のリノベーションでもある。
さて前回、オーナーにこのビルを「都心企業のサテライトオフィス」としてリノベーションしようと提案した我々エンジョイワークス。
ビルの1階に入っている洋装店、洋食屋、美容室などの地元密着型の店群はそのままに、改修では2階の一部にあったオーナーのお父上のお住まいを3階へ移動し、2階のフロア全体を新しいワークプレイスとして生まれ変わらせようというプランだ。
いつでも歩いて海に行ける場所で仕事ができる。
それは明らかに都心のビルで働くのとは違う体感で、心身のリフレッシュやエネルギーチャージ、新しい発想・行動につながっていくのではないかと思われるし、その環境が品川から電車で1時間で得られる鎌倉なら、「働き方改革」にチャレンジし始めた企業も、働き手個人も、気軽にトライできる。
解体の様子
オーナーはこのアイデアを快く受け入れてくださった。
生まれ育ったビルがより多くの人に役立つものとして生まれ変わり、由比ガ浜のまちも賑やかになるのは、自分にとっても喜ばしいことだと。
このように、物件オーナーが自らの利益だけでなく多くの人と恵みをシェアする広い視野を持っていることは、空き家・遊休不動産の有効活用において非常に重要かもしれない。
施工中の一コマ。耐震補強や断熱もしっかり行っています。
オーナーと我々はさらに打ち合わせを深め、リノベーションプランは2階の半分をサテライトオフィスに、もう半分は2室の賃貸住居にすることでまとまった。サテライトオフィスを利用するうちに由比ガ浜に住みたくなる人もいるかもしれないし、ウィークエンドハウス的に使う人もいるかもしれない。ビル裏手の1階の空きスペースには、海に近いことをより楽しんでもらえるよう、サーフボード置き場や外シャワーも設けることになった。
冬の終わり、ビルの解体工事が始まった。
時を同じくして、施設の名前は「Satellite YUIGAHAMA(サテライトユイガハマ)」に決まった。「仕事場」と「住まい」両方のサテライト、という意味を込めて。
3/11にイベント『「鎌倉で働く」を考える。』を開催!
立春を過ぎ、日も長くなり始めた3月の宵、鎌倉の由比ガ浜通りにある我々のカフェ(兼ライブラリー/ギャラリー/一級建築士事務所)HOUSE YUIGAHAMAで一つのイベントを開催した。
会のタイトルは『「鎌倉で働く」を考える。楽しいサテライトオフィスをつくろう会議』。告知直後から申し込みが相次ぎ、当日は会場からあふれんばかりの超満員となった。このテーマに関心を寄せる人がこんなにたくさんいることに我々も驚いたというのが正直な話だ。
今回のイベントは、昨年から鎌倉市が取り組み始めた「働くまち」化のための企業活動拠点整備事業の認定(*参照:鎌倉市ホームページ
)を受けて進めている我々の「Satellite YUIGAHAMA
」および鎌倉駅西口に完成したばかりの(株)ANTzのシェアオフィス「旅する仕事場2
」の紹介を兼ね、「鎌倉にこんなワークプレイスがあったらもっと楽しくなりそう!」というアイデアを参加者みんなで出し合うという内容。
「働くまち」を目指すと言っても、一般的にオフィスという言葉から連想されるような高いビルや大規模な建物は鎌倉にはほとんどない。行政が古都の景観を守るべく制限しているし、鎌倉住民もそのような建物が増えることは望んでいない。だからこそ、まちの中に点在する空き家・空きスペース・空き店舗などを利用して「鎌倉ならではのワークプレイス」を増やし、まち全体が仕事をしやすい環境になっていくことが、みんなにとっての良い解決ではないかと思われる。
人事コンサルタント池照佳代さんから「新しい働き方」動向についてのお話
この日は、人事コンサルタントとして大手企業の「働き方改革」に第一線で関わっている(有)アイズプラス代表・鎌倉在住の池照佳代(いけてるかよ)さんから、まずは世の中の働き方動向をレクチャーしていただいた。従来はワーキングマザーなどに向けた救済措置としての在宅ワークだったものが、より積極的に生産性向上やイノベーションを促すための「働き方の自由化」へ企業の意識もシフトしてきているとのこと。ただし本当に実現していくためには、働き手自身の「自律性」「成果を出せる実力」「周囲や会社に心配させない配慮」など、より「個の能力と責任」が問われているようだ。
鎌倉でシェアオフィスを運営する敏蔭啓史さんから「鎌倉のワークスタイル」をご紹介
続いて、鎌倉でシェアオフィス「旅する仕事場」を運営している(株)ANTz代表の敏蔭啓史(としかげさとし)さんより、鎌倉で働いている人のワークスタイルについてご紹介していただいた。彼らの多くが「職」と「住」がとても近い所にある点を気に入っているとのこと。その2つを、切り替えるというより融合させ、双方に良い影響を生み出すのが鎌倉スタイルだそうだ。例えばコンビニよりお寺が多いまちだからこそシェアオフィスに住職さんが来て座禅会をしてくれるとか、パパ友ママ友など暮らしのつながりの中で知り合った仲間が仕事も回し合うとか、東京から1時間移動するだけでより良く生き、より良く働ける可能性が高まるのではとのお話だった。
鎌倉市内で二世帯住宅の一方をワークプレイス化しようと考えている参加者も
我々エンジョイワークスからは、2月にローンチした空き家・遊休不動産再生Webサービス「ハロー!RENOVATION」が、こうしたワークプレイスビルドにも大いに役立つことを伝えた。実際に鎌倉で二世帯住宅の片方を子連れママたちがシェアできるコワーキングスペースとして活用したいと考えているオーナー(*物件記事はこちら
)にもお越しいただき、鎌倉の仕事場の多様な可能性を紹介した。
由比ガ浜で施工中のサテライトオフィス「Satellite YUIGAHAMA」サイトTOPページ
https://satelliteyuigahama.com/
Satellite YUIGAHAMAのオフィスには好きな席に座れるSTUDIOと施錠できるBOOTHがある。屋外には日当たりの良いデッキやサーフボード置き場&外シャワーも。賃貸住居も併設。
鎌倉の海まで歩いて5分のこのレトロビルのリノベーションは、古い建物の再活用という意味だけでなく、「働き方のリノベーション」という意味をも含んでいる。
どこで仕事をしてもいい、いつ仕事をしてもいい。
空間的・時間的な制約から解き放たれ、心身の自由度が増すことは、働くことへの意欲や創造性にも良い影響があると期待される。
が、その一方で、今まで以上に各個人が自分で考え、行動し、結果に責任を持つことが求められる。それは時に旧来型の働き方よりもシビアな側面もあるに違いない。
働き方を考えることは、自分の生き方や豊かさ、幸せを考えることに他ならない。
そんな大きすぎるテーマは、いつもとは違った環境に身を置き、大きな海でも見ながら考えるのが得策だ。
もしあなたが働く場所を選べる状況にあるのなら、鎌倉に「ちょっとサテライト」しに来てほしい。今抱えているプロジェクトの思いがけない打開策がひらめくかもしれないし、それよりもっと重要なひらめきだってあるかもしれないのだ。
>> 第1話はこちら
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■鎌倉の海辺に、もうひとつのワークプレイス「Satellite YUIGAHAMA」
■鎌倉駅西口「旅する仕事場2」運営:ANTz/設計デザイン:エンジョイワークス一級建築士事務所
2017年3月11日 イベント『「鎌倉で働く」を考える。楽しいサテライトオフィスをつくろう会議』※本イベントは終了いたしました。
ゲストスピーカー
・池照佳代さん/有限会社アイズプラス 代表取締役
・敏蔭啓史さん/株式会社ANTz 代表取締役