地域おこし協力隊制度から広がる、空き家を活用した地域活性化事例(むすび目Co-workingほか)

人口減少や高齢化の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に誘致し、その定住や定着を図る、地域おこし協力隊制度。「豊かな自然環境や歴史や文化に恵まれた地域で生活したい」「地域社会に貢献したい」といった都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持や強化に効果を上げています。制度参加の裾野を広げる多様なかかわり方と、制度から広がった空き家再生の実効性をより高める三つの事例を紹介します。

1. 地域おこし協力隊制度と、参加の裾野を広げる多様な関わり方

地方に移り住んで活性化に取り組む「地域おこし協力隊」制度。おおむね1年以上3年以下の期間、地方自治体の委嘱を受けて地域で生活し、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、住民の生活支援などの各種の地域協力活動に取り組みます。協力隊の募集と採用を行うのは自治体。活性化事業に取り組みます。主な内容は、にぎわいを失った商店街の再生をはじめ、空き家や空き店舗の利活用、移住者受け入れ支援、地域産品の開発や販路拡大など多岐にわたります。2026年度の目標隊員数10,000人の達成に向けて応募者数を増やすことが急務のため、応募者の裾野を拡大するためにいくつかの制度を拡充しています。

おためし地域おこし協力隊

令和元年度に始まった「おためし地域おこし協力隊」制度は、地域おこし協力隊として活動する前に一定の期間、地域協力活動を体験して受け入れ地域とのマッチングを図ることを目的に制定されました。

地域おこし協力隊インターン

上記制度では隊員としての実際の活動や生活が具体的にイメージしにくいといった課題があったことから新たに創設された制度。隊員希望者が2週間以上3カ月以下の期間、実際の業務に従事することを通じて地域おこし協力隊本体への応募などにつなげます。

地域プロジェクトマネジャー

2021年度に創設されたのが、隊員のまとめ役や活動の責任者を担うマネジャー制度。地域が抱える課題の解決や人材定着を後押しするため、専門性の高さや職責に見合った報酬の引き上げなど支援を拡充。これまでの協力隊制度ではなかなか入ってこられなかった中堅層が地域に入って活躍できる機会となりました。

2. 制度から広がった、空き家再生の実効性をより高める事例

本制度による地域協力活動は、じつにさまざまな地域活動が期待されています。総務省は地域協力活動について次の例を挙げています。

地域協力活動の一例

  • 地域おこしの支援(地域行事やイベントの応援、伝統芸能や祭の復活、地域ブランドや地場産品の開発・販売・プロモーション、空き店舗活用など商店街活性化、都市との交流事業・教育交流事業の応援、移住者受け入れ促進、地域メディアなどを使った情報発信など)
  • 農林水産業従事(農作業支援、耕作放棄地再生、畜産業支援など)
  • 水源保全・監視活動(水源地の整備・清掃活動など)
  • 環境保全活動(不法投棄パトロール、道路の清掃など)
  • 住民の生活支援(見守りサービス、通院・買物のサポート、デジタルデバイド対策など)
  • その他(健康づくり支援、野生鳥獣の保護管理、有形民俗資料保存、婚活イベント開催など)

地域おこし協力隊推進要綱より引用

こうした地域活動を活発化させ、移住促進させるためには、空き家や空き店舗の利活用策も欠かせません。空き家は2018年の調査で住宅の13%にあたる849万戸と、この20年で1.5倍になり、今後も増える見通しです。ここでは空き家再生に特化した二つの事例を紹介します。

(1)越後湯沢で地域全体の空き家を活用 旅館兼まちづくり拠点「Little Japan ECHIGO」

新潟県南魚沼郡湯沢町に今年4月、廃業した旅館の建物を改修した宿「Little Japan ECHIGO」がオープンします。建物は廃業した旅館をリノベーションし、1階には地域に開くカフェバーを併設。まちづくり拠点としても位置付け、起業、移住、関係人口などのさまざまななかたちで関わる人を増やし、地域全体の空き家活用を目指します。

具体的には、湯沢町起業型地域おこし協力隊(宿泊業)隊員活動支援業務の受託事業として宿泊業で起業したい人材を呼び込み、ノウハウ共有や空き家紹介、資金調達支援といった起業支援を行うほか、二拠点居住や多拠点居住、オンラインなど多様な関係人口としての関わり方のデザインも行っていきます。運営は宿のサブスクリプションサービス「Hostel Life」やオンラインでまちづくりに関われるコミュニティ「シェア街」を提供する「Little Japan」(東京都台東区)。

改修前の外観

改修後の外観

改修後の館内
via: ljechigo.com Little Japan ECHIGO 新潟県南魚沼郡湯沢町三国660

(2)官民連携で「空き家バンク」の実効性を向上 地域おこし協力隊や移住定住コーディネーターによる「むすび目Co-working」

三重県南伊勢町で活動する地域おこし協力隊や移住定住コーディネーターら有志が集まって立ち上げたのが、地域活性化団体「むすび目Co-working(コワーキング)」。町民の「もう一つのオフィス」、訪れる人の「南伊勢への入り口」として運営するコワーキングスペース「しごとば油屋Ⅱ」を拠点に、空き家再生プロジェクトや移住定住の支援、集落応援プロジェクト、地域おこし協力隊募集と活動支援業務、地域の情報発信 などをして、地域と人をつないでいます。

2020年からは南伊勢町、エンジョイワークスと連携し、国土交通省モデル事業として空き家再生事業を展開。ウェブサイト「空き家と仕事 三重県南伊勢町 | 自分らしい移住のかたち」にて、空き家再生・利活用プロジェクトや空き家情報、仕事、暮らしについての情報を発信するほか、今年度は空き家バンクアップデートプロジェクトを展開中です。

今年3月には、地方新聞46紙と共同通信が地域に活気を与える団体やプロジェクトを表彰する「第13回地域再生大賞」の優秀賞を受賞。ポストコロナを見据えた取り組み、新しい担い手の活躍、地域からの発信力に着目した今回にて、さまざまな取り組みが相互に関連しながら展開していることが評価されました。

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(3)空き家バンク経験を活かし、空き家に付加価値をつけてサブリース
地域おこし協力隊OBらによる「おわせ暮らしサポートセンター」

紀伊半島の港町、三重県尾鷲市のNPO法人「おわせ暮らしサポートセンター」は、空き家を改修して借りやすい状態にしてから移住希望者などに貸し出すサブリース事業を行っています。建築基準法や飲食店営業許可や旅館業法などを含め、物件の特徴や立地、間取りを考慮しながらアドバイスや修繕ができるのも空き家バンク運営で得た経験や知識があるからこそ。「空き家を修繕して事務所利用に」「空き家で飲食店営業許可を取得して店舗物件に」などの事例が生まれています。

また、市内の空き家解消の一環で2年前に管理を託された国登録有形文化財「見世土井家住宅」を活用し、コワーキング&シェアオフィス「シェアスペース土井見世」を運営し、仕事と休暇を楽しむワーケーションのプログラムを展開。地域コミュニティへの入り口・案内所としています。
https://owasegurashi.xsrv.jp/

登録有形文化財の邸宅を生かしたシェアスペース「土井見世」に集まる地域おこし協力隊のメンバー。多くのメンバーが定住移住に関する情報発信などを行っています photo:田中庸介/アフロ)

3. 地域おこし協力隊についての最新情報入手先

総務省では地域おこし協力隊について広く理解を深め、興味、関心を高めることを目的に、隊員になりたい方向けのイベント情報、隊員向けの研修などの情報、各地方自治体の取り組みなどについての情報を発信。また、広報冊子では、隊員になる前により具体的に地域おこし協力隊のイメージを持てるように現役隊員の活動状況や卒業後の活動、協力隊員に対するサポート体制を紹介しています。

個々人のスキルはもとより、地域住民や事業者、行政などとの情報交換や協力促進により、一層多角的な視点からまちづくりをアプローチできると期待される地域おこし協力隊。任期が終えたあとも約65%の隊員が同じ地域に定住し、その3分の1以上が起業しています(2022年総務省調べ)。こうした地域活性化に意欲のある人材をいかに増やしていくか、地域の担い手となりうる隊員と自治体、事業者、地域住民らの連携が求められます。

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その活動の柱にあるのが「共創(Co-Creation)」です。企業のミッションに「ライフスタイル(暮らし方、働き方、生き方)について自ら考え、自ら選択することのできる仕掛けを提供し、共創する機会を生み出すことで、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する」ことを掲げ、達成に向けてさまざまな「参加型まちづくり」のツールをワンストップで提供。多様な人々と一緒に、みんなにとって価値あるものをつくり出すため、多様な人々の多様なライフスタイルと事業の実現をサポートしています。

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