スタイリスト石井佳苗さんインタビュー。The Bath & Bed HAYAMAのインテリアに込めた思いを徹底解剖!(後編)

インテリアに向き合う姿勢を通して「蔵再生」という次の時代をつくる発想の源を探る、人気スタイリスト石井佳苗さんのインタビュー。みんなの再生アイデアで生まれた“泊まれる蔵”「The Bath&Bed Hayama」(神奈川県葉山町)のインテリアには、どういった遊びの要素が秘められているのでしょうか。スタイリングに込めた思い、施工当時のエピソード、全国展開に期待することなど、たっぷりお話をうかがいました。前後編でお楽しみください!

前編はこちら
https://hello-renovation.jp/topics/detail/18452

プロフィール
インテリアスタイリスト 石井 佳苗(いしい・かなえ)さん
インテリアメーカー「Cassina ixc.(カッシーナ・イクスシー)」に10年間勤務後独立。雑誌、広告、CM、カタログなどインテリアを中心にライフタイル全般の提案やスタイリング、ショップディスプレイ、モデルハウスのスタイリング、講師、商品開発など幅広く活躍。スタイリストならではのセンスあふれるDIYは女性の中でも先駆け的存在となり、自宅のセルフリノベーションやDIYのライフスタイルも注目されている。
Instagram/ @kanaeishii_lc

1.「蔵に帰る」感覚は、おうちに帰るみたいな感じだった

ハロリノ荘司(以下、荘司):こちらが2階の空間ですね。いろいろな照明がありますが、階段側の照明は特殊なものでしょうか?

石井佳苗(以下、石井):これは昔からある一般的なもので「ミラー電球」と調べるとすぐでてきます。これは上半分にシェードが掛かっていて目に直接光源が入らず、下半分だけ周囲に光を拡散して明るく照らしてくれるもの。電球がそのままついたらまぶしいところに適しています。洗面で使うときはまぶしくない方向に人が立つといいんですよね。これとは逆に根本がミラーになっているもの、右半分がミラーになっているもの、ほかにも電球のつくりによって光の回り方が変わってくるものもあるんですよ。すごく簡単に雰囲気がつくれるのでこれを壁に4灯、あとは天井の梁にはスポット的な照明を、ベッドには下がったペンダントをつけました。

ここは照明器具といわれるような大げさなものは一切入っていなくて、いわゆる配光曲線といわれる照明の電球からの光の曲線やまわり方、見えるものをデザインしています。暗さもありつつ、気持ちがいいと思える非日常感を感じさせる照明計画にしました。

荘司:蔵は普通の家より窓が小さくて暗いので、今回演出された光がマッチしていますね。

石井:そうですね、本当にあの光しかないんですよね。私はこの夏に初めて、この書棚を選書した青木真緒ちゃん(「gallery kasper」オーナー)と一緒に泊まらせていただきましたが、すごく天気が良かったので朝ここから入ってくる光がとても心地よかったのね。部屋を出るとばーっと明るくなるのは開放感みたいなおもしろさがあって、逆に「蔵に帰る」感覚は、おうちに帰るみたいな感じがしましたね。

荘司:外から隔離されているところではありませんが、外の音が聞こえにくいから外との隔たりみたいなものを感じますよね。

石井:うん、それがすごくあって、帰るときもウキウキしながら帰ったような感覚が持てる。

荘司:それってなぜでしょう?

石井:この狭さかな。おうちに帰ろう、みたいな感じ(笑) 豪華で広すぎるヴィラだと感じることができない感覚がありますよね。秘密基地っぽい感じ。「ここにこんな宿泊施設があるんだよ」って泊まっていることを自慢したくなる。

荘司:それはすごいですね。それと、この青といっていいのでしょうか。ベッドカバーの染めの色も効いていますよね。

石井:キルトですね。そこも手仕事を感じるようなものを選びました。日本で藍染めしたものだったと思います。

2. 小上がりにしたことで日本の伝統的な生活様式も

荘司:ベッドを小上がりにするというアイデアは石井さんのイベントで出てきたと思いますが、実際に小上がりになって良かったなと思いました。そのあたりはいかがですか?

石井:「The Bath & Bed」だからベッドもすごく大切な部分ですよね。小上がりにしたことで日本の伝統的な生活様式を感じることもできてよかったと思います。普通にベッドが置いてあったらつまらなかったし、ベッドの脚などノイジーなものがないし、ここに座れるというのもいいですよね。

荘司:いいですね。白い壁にプロジェクターでNetflixなどの映画を流したら、ここに座ってもベッドにごろんとしながらも見られるので、おこもり空間ですね。

荘司:この写真はお気に入りです。テーブルセットがあると宿としても質が上がりますし、空間としても落ち着くように感じています。

石井:この壁面に映画などを照射したいときに、こういった小さな家具だと簡単に移動することができます。いろいろな使い道があるだけでなくインテリアの空間づくりのアクセントにもなるので入れました。

荘司:こちらはセレクトいただいたハンガーですね。これもアクセントになっていますね。

石井:これは多分インドのものですね。ハンガーも気を抜かずに良いデザインのものを選ぶことが大切です。さっきの取っ手のお話でも出ましたが、何でもない日用品に気を使っているところが結構響くんですよね。それは自分の家もそうですね。

荘司:わかります。気を抜いてしまうアイテムって結構ありますね。

3. 古いものも新しいものも手入れをして受け継いでいきたい

石井:夏に泊まったとき、私が最初に入れたときとほとんど変わっていなかったから感心しました。私は最初にインテリアで関わるので、オープン後にどうなっていくかということが気になるんですよね。「シンプルなものだったらいいんじゃない」とゴミ箱がプラスチックの箱に変わっていたり、何か違うものに変わっていたり。それが積み重なっていって結局は普通になってしまって、悲しい思いをすることが多いんです。でもBBHは4年経っているのに、バスルームや手洗いなどの水回りも手入れが行き届いていて当時のまま。清潔感を保ってきれいに使ってくれていて、一つひとつの小さなこだわりも壊さないで大切にしてくれていると感じました。そういう意味ですごく感動しました。

荘司:ありがとうございます。いま見ていただいている写真は4年前の竣工当時のものですが、本当に今と変わっていないですね。運営側の努力もありますし、石井さんにセレクトいただいたものが長持ちするというか、ずっと使えるものであったのも、ここがずっと使い続けられているポイントのひとつだったのかなと感じました。

石井:そうですね。よいものは古くても残っているので、手入れをして受け継いでいきたいですね。それがたとえ新しいものでも大切に長く使い続けていきたいです。

荘司:最後の質問になりますが、全国にたくさんある蔵を宿泊施設にしていくBBプロジェクトが始まります。石井さんの視点でおもしろくなりそうなポイントがありましたら教えてください。

石井:その土地に関連するアートであったり、素材であったりをThe Bath & Bedのインテリアとしておもしろく取り入れられるのかなと思います。たとえば地元の和紙を活用するとか、アーティストに絵を描いてもらうとか。もちろん絵だけでなく彫刻などいろいろな分野があると思います。そういった方々とご縁があって知り合えたときに「何かをやってみましょう」といったセッションが生まれたらおもしろそうですね。だから葉山の蔵はこうだったけど、長野に行ったらこうだったねとか、その土地、その土地をベースにした温かさやちょっとしたギャップをいい塩梅で取り入れられるようにできたらいいのかな。

荘司:まさに先日、越前の和紙を見させてもらって、紙としてただ使われるだけではもったいないと感じました。そういった地域のものをThe Bath & Bedに取り入れて宿泊した人に知ってもらえる機会をつくることもできそうですね。今日は本当にありがとうございました。

石井:ありがとうございました。

(おわり)


スタイリスト石井佳苗さんインタビュー(1)「The Bath & Bed HAYAMAのインテリアに込めた思いを徹底解剖!(前編)」

The Bath & Bed Hayamaについて

Bath & Bedシリーズのきっかけとなる「Bath & Bed Hayama(以下BBH)」は、エンジョイワークスが2018年6月に日本で初めて「小規模不動産特定共同事業者」となり、第1号募集ファンドで開業した、神奈川県三浦郡葉山町にある「一棟貸しの宿泊施設」です。約12坪の小さな蔵を、1階はラグジュアリーなバスルームとソファを据えてくつろげる空間に、2階は最大4名が泊まれる小上がりのあるベッドルームに改修し、コロナ禍でも順調に運営を継続しています。投資家や地域住民が主体的に関わることのできる仕組みにより事業計画が組み立てられ、参加型まちづくりの成功事例としても評価されています。
https://bathandbedhayama.com/

The Bath & Bed プロジェクト 日本中の蔵をホテルに!いよいよ全国展開へ

2022年8月に「The Bath&Bed Hayama」のビジネスモデルを全国の蔵の再生にも活用する「The Bath & Bedプロジェクト」を電通と立ち上げました。この「The Bath & Bedプロジェクト」で再生する蔵のインテリアデザインは「The Bath & Bed Hayama」のインテリアを手掛けたスタイリストの石井佳苗さんに引き続きご担当いただきます。
https://hello-renovation.jp/renovations/15709

※本記事は昨年11月に開催したオンラインイベントの一部から構成したものです。
イベントアーカイブはこちら https://hello-renovation.jp/topics/detail/18550

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