投資対象の「価値」は「期待」と「実績」の掛け合わせ/共感投資を考える(3)
執筆者 川村 達也(かわむら たつや) コラム一覧はこちら
「投資」と「鎌倉」の二軸で活動する二児の父。ベンチャーキャピタルでスタートアップへの投資、個人では上場株と未上場株投資を行う。鎌倉を拠点としつつ、海外へ数ヶ月拠点を移したり、キャンピングカーで国内を移動したりする生活を家族で送っている。
投資をするにあたり、「価値」を判断することは重要です。
投資する対象が企業だとしましょう。企業の価値を判断するには、専門性の高い知識が必要だと思われるかもしれませんが、普段愛用している商品が素晴らしいので、その企業には価値がある、と思えることも立派な判断の一つです。
とはいえ、体感値ではなく、指標で判断したいと思ったとき、最低限の知識といえるのはこの式でしょう。
いつでも本質を捉えている数式というものはシンプルで美しいものです。
それぞれの指標の中身を詳細に答えられることが重要ではありません。
小難しい説明は他に譲るとして、簡単にこの式を捉えるならば、
PBRとは「価値」であり、企業の存在意義を判定する指標。
PERとは「期待」であり、企業活動への期待値を表す指標。
ROEとは「実績」であり、企業の利益を生む体質を示す指標。
ということができるでしょう。
企業の存在意義である「価値(PBR)」は、「期待(PER)」と「実績(ROE)」の掛け算で表現されるというものです。
*PBR…株価純資産倍率
*PER…株価収益率
*ROE…自己資本利益率
価値 = 期待 x 実績
「価値」は、人材に置き換えても、同じことが言えます。
人は存在するだけで価値があるなどの話はここでは置いておきまして。労働市場で評価される人材の価値は、若手であることや、伸び代がありそうな、つまりは期待があります。
もう一つは、経験やスキル。これまで成果を出してきたかという人材。つまりは実績です。
期待と実績、この両方が高ければもちろん価値は突き抜けますが、実際はどちらかのウェイトが高いということのほうが多いのかもしれません。
企業で言うならば、新興市場に上場している会社は期待値が高く、実績はまだまだ、というケースでしょう。東証一部に上場している会社は、期待値はそこまで高くないが、実績で評価されるというケースが多いのではないでしょうか。
価値(PBR)= 期待(PER) x 実績(ROE) という式は、価値がなにで成り立っているかいう示唆を与えてくれるのです。
価値(PBR)
式の左辺にある、価値(PBR)から見ていきましょう。
PBRは株価と資本の関係を示しており、1を超えているか否かが判断の目安になります。
少し難しい表現になりますが、PBRが1未満の場合、理論的には、会社を解散して残っている財産を株主に分配した方が株主は得という状態を指します。
厳しい言い方をすれば、PBRが1未満の会社は存在している価値がないということになります。一方、そのような会社だけれども存在価値はあると自分が思えるのならば、その会社は割安であるという見方にもなります。
日本の上場企業の中で、PBRが1未満の会社は多数存在しており、問題視されています。
期待(PER)
式の右辺の一つ目は、PERです。現在の利益と株価の関係を示しており、株価が割安か割高かを見る指標でもあります。15倍程度が一つの目安といわれています。
たとえばPER100倍の企業があったとしましょう(実際あります)。現在の利益水準に対して、かなり期待が集まっている銘柄と言えますが、15倍を大きく超えているので割高であるといい切ることはできません。期待値をもって割安なのか割高なのかを決めるのは、あくまで判断する人によるからです。
ROE(実績)
式の右辺の2つ目はROEです。現在の利益と資本の関係を示しており、一般的にはいかに効率的に稼いでいるかを見る指標と言われており、8%を超えているかが目安です。
これは私見ですが、ROEを「効率性の指標」とする見方は好きではありません。
計算式だけ見れば、利益を分子とし、資本を分母としているため、いかに資本を効率的に使い利益を生んでいるかを判断する指標とも言えます。ゆえに、ROEを重要視する経営者や投資家は短期思考であると非難されることがあります。これは適切な見方ではありません。
決してROEは短期視点ではなく、相当深い指標であるため、資本効率性という言葉だけで片付けてほしくないという思いがあります。(いかに深い指標であるかは長くなり過ぎるためここでは省きます)
いまの資本に対してどれだけの利益を出しているかという意味で、ROEは「実績」を測る指標というぐらいがちょうどいいかと思っています。
一方、海外でありプロの投資家がROEを重視していることは確かであり、ROE8%を切っている会社への評価は厳しいことを、個人投資家は認識しておく必要があります。
価値を知るということ
目安となる判断基準を入れて、あらためて企業の価値を考える式を見てみましょう。
大切なのは、自分の肌感覚と式を照らし合わせるプロセスです。
指標だけを信じていると足元をすくわれ、肌感覚だけで決めていると賭けに負けます。肌感覚と指標を行ったり来たりしながら、その差を理解していくことが「価値」を知るということだと思います。
〔川村 達也の連載コラム〕
1.「投資」と「運用」の違い
2. 投資とサーフィンは似ている。投資を始めるために必要なこと
3. 投資対象の「価値」は「期待」と「実績」の掛け合わせ
4. 投資で変わる街の風景
5. 投資家がこれからの社会を変える
6. ポジティブな監視社会
7. 仲間になる投資家
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10. 投資を続けていくコツ
11. ローカルを大切にしよう。投資力を高めるハロリノ・コミュニティ